役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
壮絶な過去と向き合い、かけがえのない親友との再会を夢見て旅に出る
2019年も本連載をよろしくお願いいたします。
普段は激務に励む皆様も、年末年始は、普段会えない親族や友人にお会いになっているのではないでしょうか。今回は、そんな時節柄にぴったりな作品『家へ帰ろう』をご紹介します。
主人公は、88歳の仕立て職人・アブラハム。娘たちに老人ホームに入居させられることになったその前日、親族が勢揃いします。アブラハムは6人の孫と記念撮影をして、その写真を老人ホームの奴らに見せつけてやるんだと、何ともひねくれたじい様っぷり。しかし、どうしても嫌がる孫娘がひとり。そこで始まるのが、孫娘とのお金の交渉。「iPhone、買ってくれたら一緒に写真撮ってあげてもいい」この孫娘のひねくれっぷりも相当ですよ(笑)。映画冒頭、何が始まるのかわからないなか、このやり取りが面白くて、一気に引きこまれてしまいました。
そして、アブラハムは約70年振りに、自分の命の恩人に会いに行くことを決意。家族には何も告げず、自分が最後に仕立てたスーツを携えて、アルゼンチンのブエノスアイレスからポーランドのウッチまで旅に出ます。
主人公はホロコーストを生き抜いたのですが、パブロ・ソラルス監督の過去の見せ方が、すごく上手い。最低限の映像と主人公の語りで見せることで観ている側は想像が大きく膨らみ、より当時の恐ろしさを感じます。
そして、アブラハム役のミゲル・アンヘル・ソラの存在感。日本人なら亡き三國連太郎さんしか思いつかない色気と人たらしぶりでした。
また、旅先で出会う3人の女性がとても魅力的。特にアンヘラ・モリーナの枯れた美しさには釘付けでした。私、たくさんの子供と孫たちに囲まれて、余生を過ごすつもりでしたが、この映画を観る限り、そうそう上手くもいかなさそうです……。しかし、アブラハムのような人生も選択肢のひとつに持っておけば、その日を迎えた時、子供や孫のご機嫌を取ることなく、ひたすら自分の人生を生き抜くことができるかもしれない。
『家へ帰ろう』
パブロ・ソラルス監督は、故郷にもかかわらず「ポーランド」という言葉を生涯禁句としていた祖父をモデルにドラマを作り上げ、世界の8 つの映画祭で観客賞に輝いた。主演を務めたのは『タンゴ』のミゲル・アンヘル・ソラ。ブニュエル映画で知られている女優、アンヘラ・モリーナも美しい。
2017/スペイン、アルゼンチン
監督:パブロ・ソラルス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナほか
配給:彩プロ
シネスイッチ銀座ほか全国順次公開中