役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
スカイダイビングをした人生のほうが、きっといいに決まってる!
本連載初のドキュメンタリー映画の紹介です。普段、僕は俳優の演技に興味を惹かれて映画を見ますが、やはり真実に勝るものはありません。『ギフト』はひとりの男を通して父親、息子、夫といろいろな立場から共感できました。
主役はNFLのスター選手だった、スティーヴ・グリーソン。引退したあと、34歳の時、身体が動かなくなっていく病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けます。"アイスバケツチャレンジ"が以前話題になりましたが、その発起人なんです。病気の発覚と妻の妊娠が重なり、まだ見ぬ息子に向けビデオレターを撮り始めるのですが、その映像が劇中、使われています。
すごく自然体で、汚いところも弱いところも見せる。僕が身に染みたのが、子育てと看病で奥さんがクタクタになっているのに、スティーヴが「最近の君は僕に対しておざなりだ」と訴えるところ。わかるよー。言っちゃダメだとわかっているのに、つい甘えてしまうんですよね。健康な僕でさえ、奥さんに同じようなことを言ってしまっていますから。反省しております。
本作ではやはり、「終活」について考えさせられました。この先の人生をどう生きるか。スティーヴの場合、妻の明るい性格もあって、その都度「今、できること」を探し、チャレンジしていく。アラスカに行ったり、スカイダイビングをしたり。忙しさにかまけて、何も行動を起こさない自分の人生が勿体なく感じました。スカイダイビングをしたことのある人生とない人生では、きっとしたことのある人生のほうがいいはずですから。
病気は確実に進んでいきますが、スティーヴは、ALS患者の発言者として患者支援の第一人者となります。一方、奥さんは、この仕事を優先してビデオレターがおざなりになっているとプンプン怒る。この夫婦のバランスがすごくいい。
映画を見ていて、やはり男はタフでなければ、と思いました。タイプは違えど僕の周りにもいっぱいいます、年を重ねるたびにタフになっていく先輩方が。滝藤もかくありたいと、決意を新たにしたしだいです。
『ギフト 僕がきみに残せるもの』
2016年/アメリカ
監督:クレイ・トゥイール
出演:スティーヴ・グリーソンほか
配給:トランスフォーマー
8月19日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開