役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!! 今回は『人魚姫』を取り上げる。
笑っていいのか泣いていいのか
チャウ・シンチー、あんた最高だよ!
年の瀬ですね。2016年の日本の映画興行はなかなか好調だったようですが、今から紹介するのはアジアの歴代興行収入を塗り替えたNo.1作品、『人魚姫』です。
監督は『少林サッカー』『カンフーハッスル』のチャウ・シンチー。潔いほどのバカバカしさ、てんこ盛り。
今回、25億円という膨大な製作費をかけたそうですが、どこにそのお金を使ったのか......。実写とCG部分との差がとにかく雑。気持ちいいくらいになじんでいない。メインの俳優以外はどこから連れてきたのか、その辺にいる普通のオッサン・オバサン感が半端ない。もうそれだけですでに面白いのに、ワンカットごとに「これでもかっ!」というほど、ぶちまけられるギャグの応酬。それも突然、頭上にタライが落ちてくるような典型的なギャグばかり。しつこいぐらい同じことを繰り返してくるチャウ・シンチーお決まりのパターンは、ドリフ世代には堪らない!
なかでも、上半身が人間で下半身はタコの"タコ兄"には要注意! タコ兄って名前だけでも充分おかしいのに、見るほどに腹筋が崩壊する面白さ。演じている当人は真剣だから、なお面白い。この終始ふざけまくっているタコ兄が、ラストには人魚族のリーダーとして戦うんだから反則だ。格好よすぎて涙が止まらない......。笑いと涙は隣り合わせだと実感。
シンチー監督は無名の女子を発掘することでも有名です。毎回、冒頭でヒロインは垢抜けなく小汚い。でも、ラストには洗練され、演じた子は公開後には大スターとなっています。今回もそのパターンは顕在。終盤、それまでのおふざけが一変し、突然、『アバター』のように高等なメッセージのなか、人魚族VS人間の凄まじい戦いになりますが、映画を通してあからさまに説教しているのがチャウ・シンチーの食えないところ(笑)。
ああ、滝藤もタコ兄、やりたい。シンチー監督の映画には意味なく半ケツの男が出てきますが、私も日本では相当ケツを出してきた部類です。どなたか、口添えをお願いします。
『人魚姫』
監督はアジアで人気の俳優、コメディアンのチャウ・シンチー。2016年2月に中国で公開されるや大ヒット、最終的に591億円の興行収入でアジアの歴代興行収入のトップに輝いた。海中にしかけた強力兵器で海洋生物を排除する若き青年実業家(ダン・チャオ)と、人魚族の戦いを壮大に描く。
2016年/中国
監督:チャウ・シンチー
出演:ダン・チャオ、リン・ユン ほか
配給:ツイン
2017年1月7日よりシネマート新宿ほか全国順次公開