連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『ナイトクローラー』を取り上げる。
不快なのに痛快!結末はまさかのハッピーエンド……?
例年以上の暑さも和らぎ、夏夜のアバンチュールのその後の展開にご腐心されている御仁(ごじん)も多いかと存じます。皆さんが楽しいひと時を過ごしているなか、2時間半かけて特殊メイクをし、火星でゴキブリ退治に精を出していた滝藤です。その成果は来年(2016年)公開の映画『テラフォーマーズ』でご覧いただければ幸いです。
さて、今回紹介する『ナイトクローラー』ですが、これぞ夜の街に徘徊するゴキブリのごとく、世にはばかる報道スクープ専門の映像パパラッチを描いたもの。これがもう日本では考えられないほど、露悪的(ろあくてき)なんです。警察の無線を盗聴し、ライバルに先んじて現場に直行、死体を撮るのは当たり前。その映像を放送局に高値で売りつけ、テレビ側もヘッドラインでセンセーショナルにオンエアする。それで、視聴率が跳ね上がっていく。
求める人たちがいるから、ナイトクローラーという職業が成り立つ。僕たち大衆の欲望がこういう闇の職業を生み出していると思うと、うーん……とても考えさせられます。
ニートからナイトクローラーとしてのし上がっていく主人公ルーを演じるのはジェイク・ギレンホール。この役を演じるために12kg減量したそうですが、とにかく彼の存在すべてが気持ち悪い……。カメラを構える姿勢なんて、不快極まりない。何をやっても罪悪感のない表情で正当化してくる姿は実におどろおどろしいです……。
スクープを餌(えさ)に、放送局の女性プロデューサーへいろいろと要求をしていき、途中から肉体関係まで強要する展開も「おー! その年代にいくんかい」と興味を引かれました。そのレネ・ルッソ演じるプロデューサーが、熟女なのに10代の女学生のように頑(かたく)なに拒むところも「え? 何をそんなに嫌がってるの?」と意外で、そこの駆け引きも相当楽しめました。
派手なテーマではないですが、ノンストップで突っ走るので痛快です! ただ、ゲーテ読者にとっては、努力もせずやり方だけ盗む新世代が増えていることを暗示する内容で、ゾッとするかもしれません。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!