ENTERTAINMENT

2015.05.06

『アリスのままで』滝藤賢一の映画独り語り座05

連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『アリスのままで』を取り上げる。

アリスのままで

女の物語だけれど男のエゴが哀しく生々しい

連載開始以来、男優ばかりを熱く語り、女優には興味がないのか、と先日ご指摘を受けたばかりの滝藤です。

いえいえ、そんなことはありません。今回は先のアカデミー賞で最優秀主演女優賞を獲得したジュリアン・ムーアの演技に目が釘づけになりました。確かな演技力に加え、『ビッグ・リボウスキ』や『ブラインドネス』『キッズ・オールライト』と脱ぎっぷりがいいのもカッコいい。女性の綺麗なところだけではなく、醜い部分まで臆せず表現する女優です。

今回紹介する『アリスのままで』はベストセラー小説の映画化で、50歳にて若年性アルツハイマーを発症する言語学者に扮しています。これがまた、巧(うま)いんですよ。コロンビア大学の教授として、世界中を飛び回って講演をしていたのに、記憶がどんどん抜け落ちていき、顔のハリがなくなり、シワも目立ち、表情も消えていく。

たった1年で風体が様変わりするのですが、逆に内面は少女へ、さらに幼女へと還っていくことで、所作がどんどん可愛くなっていく。家のトイレの場所がわからなくなっておもらしをし、夫の前でさめざめと泣く場面でさえ、みじめさより動作の愛らしさが上回る。

もう一つ興味深かったのは、家族の受け止め方。特にアレック・ボールドウィンが演じる夫。いざ妻が病気となると、その事実を受け入れられない。妻を愛していても、自分のキャリアは諦めたくない。この葛藤、実に男のエゴといいますか、生々しいですよね。僕も今、『はなちゃんのみそ汁』という映画で、ガンと闘う妻を持つ夫を演じているのですが、病気を題材にした作品での受けの演技は難しい。ボールドウィンの妻の感情に鈍感な感じは実にリアルだなと思います。

一つ気になったのは、アリスの娘役、クリステン・スチュワートの一辺倒な芝居です。根拠のない自信だけはある、売れない女優の役なんですけど、彼女の芝居はそれを表現しての“一辺倒”だったのか……。そうであるなら、かなり素晴らしいんですけどね。

アリスのままで

『アリスのままで』
2014年/アメリカ
監督:リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウェストモアランド
出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン ほか
配給:キノフィルムズ
6月27日より新宿ピカデリーほか全国公開

過去連載記事

■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!

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COMPOSITION=金原由佳

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