2023年9月8日~10日の3日間にわたって開催されたWEC(世界耐久選手権)富士6時間レースを、“3度のメシより運転大好き!”を公言する日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員のフリーアナウンサー・安東弘樹が観戦。グッドイヤーがタイヤを供給しているワンメイクレース、LMP2クラスを観ながら本国キーパーソンにインタビューを敢行した。
安東弘樹が現場で感じた、極限の中でのタイヤ性能
世界各国から最高峰のチームとドライバーが集結し、激しい戦いが繰り広げられたWEC世界選手権のLMP2クラス。このクラスに単一サプライヤーとして、タイヤを供給しているのがグッドイヤーだ。英国から来日したグッドイヤーのレース・プログラム・マネージャー、マイク・マクレガーさんを安東弘樹が直撃した。
安東弘樹(以下安東) マイクさん、本日はこのような機会にお招きいただきありがとうございます。グッドイヤーはWEC(世界耐久選手権)においてワンメイク(同一車種を用いて行うレース)のLMP2クラスでタイヤを一社供給しています。モータースポーツに参戦される最大の意義は何でしょうか?
マイク・マクレガー(以下マイク) グッドイヤーとしては、まさにテクロノジーのレベルを上げていくということ。そういった意味で耐久レースにタイヤを供給することはとても重要なことなのです。
安東 なるほど。ところで、耐久レースにおけるタイヤの研究、研鑽といったフィードバックは、どのように我々エンドユーザーに紐づかれるのでしょう。
マイク 耐久レースではパフォーマンスを落とさずにタイヤの性能を機能させる、というのがとても重要になってきます。その点、供給タイヤはフォーミュラーレースのおよそ2倍の距離を走りながらも、しっかりグリップしながら耐久性も担保しているということがこれまでのレースで証明されました。
安東 第6戦の富士スピードウェイで行われるLMP2クラスの6時間耐久では、予選+決勝で使用できるタイヤはわずか18本のみですよね。
マイク その通りです。テクノロジーを追求していくとなると、ひとつのクラスにフォーカスしたほうがやりやすい。LMP2クラスの廃止が正式決定となった今、2024年のWECはハイパーカーとLMGT3の2クラスで構成されます。我々としては来年から新設されるこのLMGT3クラスへの供給を通して、いろいろなチーム、ドライバーとさまざまな経験を積んでいくことで、いかに汎用性があるタイヤを供給するかを目指します。ソールサプライヤーとして、ワンメイクレースは重要なフィールドです。そういう気持ちを持って、来年、新設されるLMGT3カテゴリーでも、同じように取り組んでいきたいと思っています。
もちろん、そのための研究開発や知見は、最終的には市販タイヤの性能にも役立てられ、みなさまエンドユーザーにも繋がっていくものです。そういう意味でも耐久レースにとどまらず、他のレースに関しても、まさに我々のテクノロジーを向上させるという意味で、モータースポーツへの参戦は極めて重要なのです。
安東 私たちも市販タイヤでその恩恵を受けているわけですね。驚いたのが、1種類のコンパウンド(合成ゴム素材)だけで、すべての状況に対応すること。どのようなアプローチがあったのでしょうか。
マイク まさにとても大変な開発プロセスでした。耐久レースに復帰した際、すべてのサーキットの条件を満たすということから、まず5つのタイヤスペック(ドライタイヤで最大3スペック、ウエット用のタイヤで2スペック)の供給から始めました。ただただテクノロジーのレベルを上げたいと。とにかく業界初のワンスペック(ドライタイヤとウエットタイヤ、それぞれ1種類)供給に絞る、ということを試みたわけです。
例えば、2023年5月のスパ耐久戦では気温4℃、さらにスペインで行われた耐久レースでは灼熱の47℃という過酷な天候・気温のなかでレースが行われました。しかし、それらの環境下でも同じコンパウンドのタイヤで耐久レースを走破できたということ。ドライバーからのフィードバックは、とてもいいものだ、というコメントが戻ってきています。
安東 耐久レースでのタイヤの使用量が減るということは、すなわちタイヤの消費が減るということ。サステナビリティな取り組みとして、グッドイヤーではどのようなアプローチをされているのでしょうか。
マイク まさにスペックを絞ったということに関しては、大きなサステナビリティの取り組みの一環でもあるのです。現在は、運搬にかかるコストを半分に削減し、空路を利用せず、環境負荷の低減も積極的に行っています。開発レベル、サステナビリティのレベルをそれぞれ上げていくこと。安定したパフォーマンスの担保、そして環境負荷の少ない製品を展開していくということが重要だと思います。
安東 なるほど。ちなみに、私は今、グッドイヤーのオールシーズンタイヤ「ベクター」を愛車のSUVに装着しています。毎日平均100km距離を重ねても性能の劣化を微塵も感じさせず、さらにはスノーフレークマークタイヤ付きと、これから始まる冬のシーズンが楽しみで仕方ありません。
マイク 安東さん、アリガトウゴザイマス! モデルは異なりますが、例えば耐久レース用でいえば、現在欧州で販売されている「イーグル F1 スーパースポーツ R」というタイヤのコンパウンドも、耐久レースで開発したタイヤがベースとなっているんです。
安東 タイヤメーカーにとっても、まさにレースは走る実験室なんですね。一方、トップクラスのハイパークラスでは、TOYOTA GAZOO Racingの1、2フィニッシュでしたが、簡単に勝利したわけではなく、見応えがありました。特に今回は全カテゴリー全車完走、ということからも素晴らしいレースだったように思います。
耐久レースって本当のクルマ好き、モータースポーツ好きが多い印象です。ル・マン24時間レース然り、キャンプやBBQをしながら楽しむ。耐久レースの遊び方を欧州の人は知っているなっていうのはありますよね。グッドイヤーがこうしたトップカテゴリーのレースでタイヤを供給し続けることは、文化やカルチャーとしても大きな意味があると思うのです。日本はまだまだ成熟途中。耐久レースで観客席が満員になること。それはモータースポーツ好きの僕のひとつの夢でもあります。もっと身近な存在として、国内モータースポーツが熱を帯びてくれたら嬉しいなと思いました。
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グッドイヤー https://www.goodyear.co.jp/