BMWをベースに独自のチューニングを施し、完成新車を製造している自動車メーカーがアルピナ。年間1700台前後のみ製造されるドイツ車として洗練された動力性能を備える一方、その様式は“優美で控えめ”であることを信条としている。今回紹介するアルピナ「D5 S」は今春デリバリーが始まった最新型。BMW 5シリーズの4WD仕様“アルラット”に、心臓部には3ℓ直6ディーゼルビターボ(ツインターボ)を搭載。4.4ℓV8ビターボを載せるガソリンエンジンの「B5」を対にして、アルピナにおける中核ラインナップの双璧を担う。日本市場には「D5 Sリムジンアルラット」のみ展開。連載【NAVIGOETHE】Vol.58。
自動車グルメが思わず唸るアルピナの妙味
象徴的なブルーメタリックのボディに、フロントバンパーからボディサイドにかけて張り巡らされたデコライン。それらがなければ、アルピナだと気づかない人も多いかもしれない。
正式社名はアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン社(ALPINA Burkard Bovensiepen GmbH+Co.KG)。BMWのチューナーを出自とし、レースなどで数々の実績を残す。その功績が認められ、現在はBMWから正式にホワイトボディや主要コンポーネントを譲り受け、独自のチューニングを施し1台1台ハンドビルドしていくドイツの完成車メーカーとなった。
アルピナの流儀はあくまで“アンダーステイトメント”であること。これみよがしなスポイラーやウイングの類はいっさい装備しない。バンパーなどはアルピナ独自のデザインで、ラジエーターへと取りこむ空気の流れを最適化し、ダウンフォースを強めて高速安定性を向上させている。また瞬間的な最高速度には意味はないと考え、カタログに最高速度の表示はなく、実際にステアリングをきって快適に走行することができる“巡航最高速度”を表記するのが慣例。
価格や性能が近いことからよく比較の俎上(そじょう)にあがるのがBMWのMだが、このモデルがサーキットでの速さを追求しているのに対して、歴代のアルピナが目指すものは、ラグジュアリーかつ安心快適でそして速い、リムジンであること。したがってアルピナとMは相対するものではなく、BMWラインナップを補完するものといえる。
今回の試乗車であるアルピナD5 Sは、最新の5シリーズをベースとしたディーゼルモデルだ。1999年、アルピナは当時の5シリーズをベースとした初のディーゼルモデルD10Bi-Turboを市場に投入。これは世界でもっともパワフルなディーゼルモデルと謳われ大きな話題を呼ぶ。そのDNAを今に受け継ぐモデルというわけだ。
インテリアでは、アルピナ伝統のウッドパネルや製造番号を刻印したプロダクションプレートなどが独特の雰囲気を醸しだしている。一見するとベースの5シリーズとそれほどかわらないように思えるが、こだわりは細部に及んでおり、ブルーとグリーンのステッチが施された手縫い仕上げのステアリングホイールは、手のひらに干渉しないようにと敢えて装飾的なクロスステッチをやめて、内側へと縫いこむ手間のかかる縫製を行っている。
シャシーのチューニングでは、ベースのBMWにはない“コンフォートプラス”モードを設定。足元にはアルピナのトレードマークといえる20スポークデザインの20インチ鍛造ホイールを装着しながらも、市街地でのコンフォート性能は抜群のもの。
年間生産台数は、BMWが203万台、フェラーリが1万台、ロールス・ロイスですら5000台を超えた今もアルピナは約1700台を維持し続けている。伝統の味を守るため、それ以上増やすつもりもないという。ビジネスとしてサステイナブルなのかと心配になるが、実はアルピナは欧州では知られたワイン商社でもあり、ビジネスの主軸はワイン販売なのだ。
世界中の名車を堪能してきた美食家たちはその仕立てと乗り味を“アルピナマジック”と呼ぶ。秘伝のレシピが確実に存在するのだ。
BMWアルピナ
D5 S リムジン アルラット
ボディサイズ:全長 4980×全幅1870×全高1480mm
ホイールベース:2975mm
エンジン:直列6気筒ディーゼル+ツインターボ
排気量:2992cc
最高出力:347ps/4000-4200rpm
最大トルク:730Nm/1750-2750rpm
駆動方式:AWD
変速機:8速スポーツAT/SWT
乗車定員:5名
車両価格:¥13,580,000~
問い合わせ
アルピナコールTEL:0120-866-250