デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vo.12。仕事において情報を整理し、共有することは重要な要素のひとつ。また相手の見えないところで情報を得ることが時に勝ちを引き寄せる術にもなる。
共通のゴールを見える化する
仕事を円滑に進める際に、情報の共有がきちんとできているかできていないか、これが大きく仕事の進み方を左右します。海外プロジェクトを多く抱えているグラマラスでも、情報の共有は常に重要な課題のひとつです。一緒にプロジェクトを進めるクライアント、職人、スタッフなど、あらゆる場面で情報の共有は必要となります。そのため、プロジェクトを円滑に進めるうえでコミュニケーション環境を整えることは非常に重要です。
なぜ情報の共有が重要なのか。情報共有の目的のひとつは業務の可視化です。業務を可視化し、全員で共有していれば、トラブルが起こった際に迅速に対応することができます。特に海外のプロジェクトにおいては、「言った、言わない」のトラブルが多いため、基本的なことになりますが、ミーティングの議事録はとても重要です。議事録を取り、そこからさらにプロジェクトの内容やスケジュール、予算を視覚化します。
僕たちのようなデザインの仕事では図面や実働日数を表記したゼロ工程表がそれにあたります。これらによって共通のゴールを見える化し、コミュニケーション環境を整えるのです。価値観や生活習慣の違う海外の方との情報共有は難しいと考える人もいるかと思います。たしかに、その国特有の文化や独自の習慣があるので当たり前のことが当たり前に進まないこともあります。しかし、どの国のプロジェクトであっても僕たちがやることに大きな差異はありません。
タモリさんさながら。知識を得ることの大切さ
僕は仕事柄、国内外を含め、新しい土地に出向いてプロジェクトを始めることが多いのですが、その際に“相手に見えないところでの情報の共有”が重要となります。それは相手のバックボーンを徹底的に勉強することです。どのような土地なのか、どのような産業で発展してきたのか、その土地の歴史から調べます。
NHKのテレビ番組『ブラタモリ』のタモリさんさながらの知識を得ることによって、現在その地域では何を求められているのか、プロジェクトに何が必要なのか、何をすべきなのかが見えてきます。相手に見えないところで相手の情報を得る=徹底的に勉強し、理解を深める。そうすることでプロジェクトに物語が生まれ、結果を導きだすことにつながるのです。
先日、大阪・心斎橋に「W Osaka」がオープンし、その一階、路面沿いの鉄板焼「MYDO(まいど)」のインテリアデザインを手がけさせていただきました。この案件は“相手に見えないところでの情報の共有”の準備が整っていたからこそ完成したプロジェクトであると自負しています。
関西人である森田が大阪という土地を理解し、そして「W Hongkong」を過去に手がけた実体験があるからこそ、その土地柄とホテルコンプセト、「MYDO」を結びつけることができたのだと思います。
今の時代、情報共有のツールは多種多様にあります。それらを使ってコミュニケーション環境を整える。そして蓄積された情報を整理し、共有し、活用する。それこそが仕事の成功への近道だと僕は思います。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。