今、アートにハマるビジネスパーソンが増えている。アートを所有することは人生にどんな刺激を与えてくれるのか。アイスタイル 代表取締役社長兼CEOである吉松徹郎氏に、アートを楽しむ極意を聞いた。
アートを軸にしたコミュニティづくり
「空間と体験。僕の場合、そこからアートの世界に入っていけたのは、幸運でした」
都内にあるプライベートオフィスでアート作品に囲まれながら、アイスタイル代表取締役社長の吉松徹郎氏は言う。化粧品・美容の総合情報サイト事業を手がける会社を率いる身ゆえ、“美しいもの”には敏感なのだろうと想像するが。
「小さい頃からアートに興味があって……というような逸話は、残念ながらないんです(笑)。学校で美術館見学に連れていかれても、いち早く外に抜けだしちゃうようなタイプでした」
事業を興すまでは、そんな調子のままだった。しかし起業後しばらくして、付き合いのある経営者に連れられ、日本のアート界を牽引するメンバーとともに米国の美術館やコレクターの自宅を巡る機会に恵まれた。
「他に何の接点もない人たちが、『アートが好き』『あの作品を見たい』ということだけで集い、つながっていく。その様子がすごく素敵でした。建築にはもともと興味があったので、アートのある空間をみなが喜んでシェアしているのも、いい眺めだと思った。そこに在るだけで場の空気を一変させたり、不特定多数の人を集めてしまう。そんな磁力を持ったものって、アート以外には思いつきません」
以来、世界中のさまざまな空間で、アートを体験することを繰り返してきたという。
新潟県の越後妻有(つまり)地域で開かれる「大地の芸術祭」にも、誘われて足を運んだ。アートを求めて多くの人が、自然の中へと向かっていく……。その空間に感銘を受け、今やオフィシャルサポーターを務めるまでに。さらに公益財団法人「アイスタイル芸術スポーツ振興財団」を立ち上げ、若手アーティストに制作支援助成金を出す活動も、数年来継続している。
「アートを通して、いろんな人たちと出会えることが僕の喜びですからね。作品をたくさん見ることや、アーティストを支援することに主眼を置いてきたので、自分自身のコレクションというのは、体系立ったかたちにもなっていません。これから、ですね」
吉松氏は現在某所に、別荘を建設中。これぞ、と見定めた若手建築家とともに、理想の空間を模索している。
「別荘の中に、コミッションワークとして、その場に合ったアートを設置できないかと考えています。アートを介し多様な人たちが集う場をつくる、その実践例になったらいいですね」
Tetsuro Yoshimatsu
1972年茨城県生まれ。東京理科大学基礎工学部卒業。アクセンチュアを経て、’99年アイスタイルを設立。化粧品口コミサイト「@cosme」を開設する。2012年に東証一部上場を果たした。