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2024.04.01

ナパ史上最も成功したカルトワイン「ハーラン・エステート」。100年先を見据えたブランド戦略

1976年にワイン界を震撼させたいわゆる「パリスの審判」により、その存在が世界的に認められたカリフォルニアワイン。なかでもナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンは絶対的な価値を築き上げ、生産量のごく限られたカルト・カベルネは、ボルドーの五大シャトーすら凌駕するようになっていった。そのひとつ「ハーラン・エステート」は創立から40周年を迎え、第2フェーズへと進もうとしている。

ハーラン・エステートのドンとフランソワ
左がファウンディング・ディレクターのドン・ウィーバー。右がディレクターのフランソワ・ヴィニョー。

不動の地位を築いたトップ・オブ・カベルネ

その美しいラベルに象徴されるがごとく、芸術的とさえいえる精緻なブドウ栽培とワイン造りによって、世界中のワイン愛好家を魅了するハーラン・エステート。1996年に90年ヴィンテージが初めて売り出され、それからわずか5作目の94年ヴィンテージに、世界的ワイン評論家のロバート・パーカーが100点満点を献上。以来、30ヴィンテージ中10ヴィンテージで100点を獲得する、ナパ・ヴァレー史上、もっとも成功したカルト・カベルネのひとつである。

創業オーナーはビル・ハーラン。不動産業で財を成し、のちにナパ・ヴァレーに高級リゾートホテルの「メドウッド」を建設するこの億万長者が、ワイナリー設立のプロジェクトに乗り出したのは、ナパのワイン産業が高級路線へと舵を切り始める1984年のこと。

彼はヒルサイドと呼ばれるオークヴィルの丘の斜面にブドウを植栽。ト・カロン・ヴィンヤードやマーサズ・ヴィンヤードなど、80年代に名を馳せたブドウ畑が位置するのは、いずれもナパの平地のヴァレーフロア。ハーランの違いはまさにそこにある。

ハーラン・エステート
ハーランの現行ヴィンテージは2019年。ドンいわく「寛大で球体のようにバランスの取れたヴィンテージ」で、今開けてもタンニンはほどけて優しく、そのおいしさを素直に楽しめる。そしてさらに熟成が進むと、森の下草やキノコなど“アーシー”なニュアンスが現れる。ちなみにパーカー・ポイントは100点。

「ワイナリー設立前にヨーロッパの銘醸地を見て回ったビルは、ブルゴーニュの特級畑がすべて東向き斜面にあることに着目しました」と、ファウンディングディレクターのドン・ウィーバー。「斜面は水はけがよく、痩せていて、日当たりは良好。同じ斜面でもヴァカ山脈側は西向きで、強い西陽を受けてブドウが焼けやすい。東向き斜面はやさしい朝陽を浴びるので、その心配がありません。さらにここはサンフランスシコ湾から冷たい空気も流れ込み、ワインにフレッシュさがもたらされます」と土地の優位性を語る。

ハーラン・エステートのドン
ファウンディング・ディレクターのドン・ウィーバー。ハーランの創業時からワイナリーの実質的運営を任され、世界への販売ルートも開いていった。日本は初ヴィンテージからのお得意様で、中川ワインが輸入している。ちなみに生産量の60パーセントがメーリングリストに名を連ねるハーランの忠実な愛好家に販売され、40パーセントがアメリカ国内のレストラン、ショップ、海外への輸出という。フランソワ・ヴィニョーを後継者として育て、第一線を退く。

ビル・ハーランほどの富豪であれば、すでに名声を確立したワイナリーを買収するほうが、よほど効率的によいはず。なにしろ、ブドウ畑の着手から初リリースまでの12年間は投資ばかりが膨らむ一方、ワイナリーへの収入はなにもないのだから。

「彼はゼロから始めることを望み、そして絶対に成功するという確信をもっていました。しかも、短期で投資を回収する気はさらさらなく、向こう100年にわたる壮大なプロジェクトとしてハーランの経営を始めたのです」

ハーランの歴史は第2ステージへ

創設から丸40年が経過した現在、ワイナリーでは世代交代が進む。オーナーシップはビル・ハーランから息子のウィルへ。ワインメーカーはボブ・レヴィからコーリー・エンプティングへ。そして営業を含めたワイナリーの実務も、ドン・ウィーバーからフランソワ・ヴィニョーへとバトンが渡される。

「第一世代は土地のポテンシャルを表現することに全身全霊を捧げました。私たち第二世代はその文化を継承し、価値観をつなげていくことが仕事です」とフランソワ。名前からわかるように彼は生粋のフランス人。ワインとは無関係の家庭に生まれながら、ワインの世界に傾倒し、ボルドーのシャトーでも働いた経験をもつ。

「ヨーロッパのワインは伝統を重んじるあまり、ルールにがんじがらめなところがあります。ハーランの素晴らしさはヨーロッパの伝統を尊重しつつ、アメリカらしいダイナミックで革新的な試みに挑戦する姿勢を崩さないところです」

ハーラン・エステートのフランソワ
2021年からディレクターを務めるフランソワ・ヴィニョーはフランスのシャラント地方出身。ボルドー地方のシャトー・キルヴァン、ランシュ・バージュ、ムートン・ロッチルドなどでホスピタリティ関係の仕事を務め、イタリアのヴィラ・デストで開催されたイベントでハーラン家の人々と意気投合。2014年に渡米し、ハーラン・エステートに迎え入れられる。2021年からディレクターを務める。

超希少! 3つのヴィンテージを飲み比べてみた

インタビューに際して、3つのヴィンテージが開けられた。現行の2019年、まもなく日本でもリリースされる2020年、そして、収穫からすでに8年を経た2016年だ。

2020年はナパ・ヴァレーが山火事に見舞われた年として知られるが、40年におよぶ経験により、その影響を免れたとドンは主張する。

「この年は2つの大きな山火事があり、9月に生じた山火事がオークヴィルを襲いました。しかし、8月中旬にはすでに完熟した区画がいくつもあり、生育が遅れた若木のブドウを犠牲にすることで、健全なブドウのみをハーランの醸造に回すことができました。栽培チームがブドウ畑の状態を小まめにチェックし、風の吹く方向まで熟知していたこともよい結果につながりました」

2019年は冬から春にかけて雨の多かった年。たっぷりと地下に水を蓄えられたので、ブドウは干ばつに見舞われることなく、すくすく穏やかに育ったという。

「夏も熱波にさいなまれず、穏やかな気候でした。ストレスがなかったので、寛大で球体のようにバランスのとれた、素晴らしいワインに仕上がりました」(ドン)

ハーラン・エステートのドンとフランソワ
ハーランを味わう際、デカンターに移す必要はないけれど、温度は低めの13℃あたりから始めること。「ハーランは少しずつ開いていく。グラスの中でどのように変化するかを楽しんでもらいたい」とドン。

たしかに2020年と2019年を比べると、1年の熟成を差し引いても、厳しい年をくぐり抜けた2020年は堅牢な長期熟成型で、2019年はすでに今飲んでもおいしい状態にあることがわかる。

また2016年は、「気温は平均的だが乾燥した年。フルーツ、酸、ストラクチャーのどれをとっても不備がなく、ハーモニーのとれたヴィンテージ」という。口に含むと森の下草やキノコなど、しばしば“アーシー”と表現されるニュアンスが感じられるが、それは「ブドウ畑を取り巻く森の影響」だと、ドンは説明する。

ハーラン・エステートのドンとフランソワ
ハーランの飲み頃についてドンは、「収穫から5年すぎて果実のニュアンスが最大限になり、そこから15年ほど経つと果実がトーンダウンし、森や土のニュアンスに変わっていく」という。フランソワも、2019年や2016年など若めのヴィンテージは「神戸牛と相性がいい」と述べ、2006年など古めのヴィンテージは、「トリュフなどを使い、アーシーなニュアンスと同調させるのがポイント」と語った。

ところで、デビュー当初からその希少性のあまり、価格上昇に歯止めの効かないハーランだが、「末端の市場で実際に取り引きされる値段も参考に、蔵出し価格を設定しています」とドン。最近はボルドーのトップ・シャトー同様、カリフォルニアのカルトワインやイタリアのスーパータスカンまでが、ボルドーの先物市場を通じてネゴシアン(仲買人)に価格を委ねる風潮にあるが、ハーランは今後もワイナリー自身で値付けをし、販売していく方針。ドンは言う。

「信頼できる各国のパートナーとの絆をこれからも大事にしたいのです」

問い合わせ
中川ワイン  TEL:03-5829-8161

TEXT=柳忠之

PHOTOGRAPH=鮫島亜希子

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