世界のガストロノミーの潮流に大きな影響を及ぼす「The World’s 50 Best Restaurants」(以下、ベスト50)が、去る10月5日に、ベルギー・フランダース地方のアントワープで行われた。その順位は、世界中の食の評議員の投票によって決まる。コロナ禍を経て、2年半ぶりの開催となった今回、果たしてガストロノミー地図に変化は見られたであろうか? 発表されたランキングや特別賞から、現在の美食の傾向やベスト50の影響力・役割を、現地で取材したライターが読み説いていく短期連載最終回。【第1回「世界のガストロノミーの潮流」はこちら】、【第2回「日本勢の活躍」はこちら】
エキゾチシズムで魅了するラテンアメリカ勢の強さ
ベスト50位以内に、中南米大陸全体で8店がランクインしているのはやはり注目に値する。第1回で紹介したペルー・リマの「セントラル」、そして日系料理を標榜する「マイド」も昨年の10位から8位へと追走している。9位にはメキシコシティの「プジョル」がランクイン。もともと食文化が発達していたメキシコにおいて、古典を新しい解釈で表現した同店の斬新な料理は常に高評価だ。さらに、13位にアルゼンチンの「ドン・フリオ」。フォークで切れるほどに柔らかなステーキが売りだ。
17位にはサンパウロの「ア・カーサ・ド・ポルコ」、27位にメキシコの「キントニル」。38位のチリ・サンチャゴの「ボラゴ」は、今の時代には不可欠な、未来を見据えた方向性を示す「サステナブル賞」も受賞。サンチャゴで最も高い山の裾野にあり、先住民族の食文化と自然を大切にしたその料理には、国際的機関「Food Made Good Global」も価値を認定しての受賞だ。46位に入ったコロンビアの「レオ」は、つい数年前までは政情不安で、とても旅行で行けるような場所ではなかったのが、今ではすっかり整備され、デスティネーションレストランとなっている。
これら南米勢の多くのランクインは、多数の評議員たちに、エキゾチシズムとしての魅力を与えてやまないということと、ブラジル「ドム」のアレックス・アタラ、ぺルー「アストリッド イ ガストン」のガストン・アフリオなど、ガストロノミーを軸に、国の経済復興に寄与したスターシェフの成功を、いい意味で追いかけ続けるパワーが、大陸全体にみなぎっているからといえるのではないだろうか。
次なるデスティネーションは中近東へ
ベスト50は最高のレストランを探すツールであると同時に、次なるデスティネーションレストランを探すランキングでもあるといえる。そのことを表す事例を、チェアマンの中村孝則氏はこう語る。
「アントワープで開催された当アワードの直後に、ロシアでも初めてミシュランガイドが刊行され、その発表会がありました。数年前からのベスト50の常連である、ロシア料理界の革命児ウラジミール・ムーヒンが率いるホワイトラビットは一つ星、30位にニューエントリーしたツインズは二つ星を獲得。ミシュランとベスト50の二つの潮流のリンクも見られます。ミシュランもデスティネーションの開拓を考えてのことでしょう。
そして2022年2月には、アブダビで初めて、ミドルイースト&ノースアフリカ ベストレストラン50アワードが開かれることになりました。中近東のレストランに加えて、“マグレブ”と呼ばれるチュニジア、アルジェリア、モロッコなどの北アフリカが対象となっています。これまでワールドベスト50にランクインしている店はまだ1軒もないので、どのような店が発掘されるのか、今から楽しみでたまりません」
ラテンアメリカのベスト50ができたのは'13年。それ以来、南米のグルメ化現象が加速し、レストラン産業が国の経済の向上に大きく貢献したことを考えると、ミドルイースト&ノースアフリカのベスト50にもきっと同じような力があるに違いないと期待が膨らむ。
アメリカでは“リベンジトラベル”という言葉がすでに一般的になっているように、旅行熱が再燃してきている。当然それに伴う、レストラン探訪の機運も広がりを見せている。'22年以降、日本でも外食産業、ホスピタリティ産業、旅行業界の動きが活発になることを願いたい。そうした動きを加速させるのに「The World’s 50 Best Restaurants」がひと役担うことは間違いない。