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2025.05.15
台湾黒社会のリアル。組織に入るのも簡単、指や腕を落とさず抜けられる
トクリュウこと、匿名・流動型犯罪グループ。最近、ミャンマーやカンボジアでその拠点が発覚したが、実は台湾にもその大きな拠点がある。台湾の「街頭」が仕切るトクリュウの現場に潜入取材し、誰も知らない闇バイトの恐るべき実態をジャーナリスト・花田庚彦氏が暴く。『ルポ 台湾黒社会とトクリュウ』より一部を抜粋してお届けします。
台湾街頭の大物との邂逅
筆者は、2024年の2月に初めて台湾に渡航した際、この台湾黒社会のある大物への接触に成功している。本来、この旅は現地在住の友人から持ち掛けられた別の話を目的にして訪れたものであった(この件では、心胆を寒からしめる経験をすることとなったのだが、それは後述する)。その際、フリーの時間が多く取れたため、どうせなら取材活動をしようと友人に黒社会の大物を紹介してほしい、と頼み込んでみることにしたのだ。すると、依頼してから3日目に「台中を本拠地とする街頭の大物と連絡が取れたので、今日の夜、台中に行きましょう」と、見事に目的を果たすことができたのである。
台北から新幹線に乗り、台中に到着すると、組織のNo.2である陳氏が、日本でも入手が困難で、プレミア価格がついているポルシェの高級車であるカイエン、しかも特注のカスタマイズが施されているという、まさにスペシャルな車で迎えに来てくれた。通訳を通じて初対面の挨拶を行った後、今回の取材対象となる組織のボスが来るまでには若干の時間があるため、食事を摂ろうと台中の高級中華料理店へと向かうことになったのだが、そこで彼とは色々な話をした。
まず、迎えに来てもらった際に陳氏が乗っていた愛車・カイエンの話を振ってみると、台湾にもポルシェのディーラーはあるが、そこを通すと1~2年待つ必要があると言われたので、組織のネットワークを使い、ドバイから輸入したという。それでも特注のカスタマイズなどの影響で、2カ月の納期が必要だった上、関税も高いために購入には日本円にしておよそ3000万円かかったそうだ。
ちなみに、こうした台湾における外国産の車に関して述べると、他のアジア各国では人気の日本車、特に中古車は、意外なことにかなりマイナーな存在である。台湾は法的に左ハンドルしか走行できないため、右ハンドルの日本車を中古で輸入した場合には、右ハンドルから左ハンドルへの換装が必要だ。さらに、関税も高いため、わざわざ輸入するのは割に合わないのである。通訳にも話を振ってみたが、日本車を見たのはスカイラインGT―Rが走っていたのを目撃した1回だけだという。
日本での相場も中古で1000万円は優に超える人気車であるスカイラインGT―Rだが、陳氏と同じような何かしらのネットワークを使って輸入されたものなのだろうか。いずれにせよ、オーナーは同車を金にモノを言わせて購入ができるだけの人物であるということは確かだろう。なお、日本の車やバイクの人気自体がないというわけではなく、旧車会のイベントが台湾で行われるなど、一部でコアな人気を獲得しつつあるのが現状である。
続いて、陳氏に本題である組織の仕事に関する話を向けてみると、「それはボスが直接話すと言っている」と回答されたため、彼が属する組織の話をしてもらうこととなった。陳氏らが所属しているのは、台中でも人数や規模では上位に入る街頭のグループだという。日本の裏社会、主にヤクザでは、一度渡世に入ったら、勝手に抜けることは難しい。それでも足抜けをする際には、近頃は少なくなったとはいえ、かつては指を詰めるのが一般的となっていたことなど、それなりのケジメが必要であることは、多くの人が知る通りだろう。この部分について聞いてみると、意外なことに組織に入るのも簡単だし、抜けるにも指や腕などを落とすことはないという。
筆者はかつて取材した中国大陸本土のマフィアから、黒社会は何かをやると腕を切り落とす、と聞いていたのだが、そうではない組織もあるようだ。あるいは、ヤクザと同じく、黒社会も時代とともに変わりつつあるのかも知れない。とはいえ、組織の金を持ち逃げしたり、警察に捕まった際に組織のことを密告したりというケースでは、詳細こそ口を濁されてしまったものの、それなりの制裁はあるようだ。
そんな話をしていると、取材対象である陳氏のボスと会見する時間が迫ってきたため、会計を済まして外に出ることとなった。その後、車に乗り込むと、陳氏は車を出す前に「しっかりつかまっていてください」と、通訳を通じて筆者に伝えたのである。どういうことかと首を傾(かし)げていると、事務所に向かう陳氏の運転する車は、高速道路をなんと時速300キロ近くのスピードで30分ほど走行。一般道路に降りてからは10分ほど走り、ボスの待つ事務所へと到着することになったのだ。
筆者は通訳とともに、陳氏の荒すぎる運転に辟易していたが、一方で彼の気持ちも分からなくはなかった。筆者もまた、同じ環境であのような車のハンドルを持ったなら、陳氏ほどとまでは言わなくても、少し荒っぽい運転をしてしまうかも知れない……。そんなことを取り留めもなく考えていると、我々が降車してから5分ほどで、目の前にやはり外国産の高級車が停まり、陳氏のボスが姿を現したのだ。
第一声で「Welcome to Taiwan!」と、流暢な英語で挨拶をしてくれたこの人物は王(ワン)と名乗った。恐らく、筆者のことを思って英語にしてくれたのであろうが、残念ながら筆者は英語も中国語も扱うことができない。その旨を通訳してもらうと、王氏は笑いながら、ソファに座ることを勧めてくれた。通訳を交えて会話をしていると、彼の経歴について聞くことができた。彼には兄がいたものの、若くして死去。黒社会の一員になったのは、13歳の時だったそうだ。その後、17歳の時に日本で言うところの少年院に入ったが、出院後には組織で才覚を認められ、出世街道をひた走ることになり、30歳にしてグループのリーダーになったのだという。
現在は街頭のトップとなり10年以上経つが、その間に数回の抗争事件に関わり、自身も短期ながら懲役を経験しているとのことだった。懲役は苦しかったか、の筆者の問いに「まあ楽勝でしたよ。どこの世界でもそうでしょうけど、金を持っていれば天国です」と答えた王氏だが、当時一緒に捕まった構成員は無期懲役の判決を受けて、今も獄中に入っており、毎月の支援は欠かさないという。
そんな話をしていると、先程一緒に食事をした陳氏がお茶を持ってきてくれたため、本格的に取材の交渉に入ることとなったのである。
なお、王氏の事務所には、氏に関連の深い台湾の仏様だという像が飾られた仏壇があったため、筆者も手を合わせておいた。値段は全部で5000万円だという。率直に言えば、仏像としてはかなり高価格なのではと思ったが、事務所の入り口には1個1000万円以上するというアメジストなどが無造作に置いてあるような状態だったので、ある意味それも自然な価格なのかも知れない、と納得してしまった。何より、神様、仏様の像の価値について、値段で推し量るのは失礼にあたるだろう。
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