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2024.07.30

刑務所内では「最底辺」…小児性犯罪者の社会復帰はなぜ困難なのか

子どもと親しくなり、信頼関係を築いた上で、その信頼を巧みに利用して性的な接触をする「グルーミング」。見ず知らずの相手を狙う痴漢や盗撮などとは大きく異なります。性犯罪者治療の専門家、斉藤章佳さんがこの性犯罪の特徴やそれを取り巻く問題について解説した『子どもへの性加害』より、一部を抜粋してご紹介します。 ※性被害・性加害の具体的な描写があります

小児性犯罪者は刑務所内で「最底辺」の存在

刑務所内でのR3プログラムも、クリニックでのSAGも、治療は主にグループワークの形式で進められます。ワークブックを用いて、複数人でグループをつくって過去の問題行動を振り返るなかでそこに至る要因を探り、認知の歪みに向き合っていきます。

グループワークでは、自身が過去に犯した加害行為について「自分の問題行動は盗撮行為です」などと言及することがあります。しかし、実はそこに小児性犯罪者特有の大きな壁があるのです。それは、犯罪者の「ヒエラルキー問題」です。

刑務所内は集団生活ですから、罪状やその人のバックグラウンド(世間を騒がせた事件なども含む)により区別され、自然と人間関係に序列ができていきます。まず受刑者ヒエラルキーで頂点にいるのが暴力団員や、殺人、死体遺棄、強盗殺人などの生命犯です。その次に有名事件の受刑者や長期服役中の受刑者、さらに薬物や詐欺、窃盗などの受刑者が続く構造です。そして、ヒエラルキーの最底辺にいるのが性犯罪者です。

刑務所内はわかりやすい典型的な男社会でもあります。性犯罪者は女性や子どもを対象にするため、「もっとも男らしくない犯罪」という位置づけになります。

牢屋のイメージ写真

犯罪者の最底辺とみなされる性犯罪者のなかでも、さらにヒエラルキーは細分化されています。「最底辺のトップ」は痴漢や盗撮で、最下位にくるのが、小児性犯罪者です(刑務所内では「ペド」という差別的な隠語もあります)。痴漢をしていた人からすると、小さな子どもに加害行為を行った小児性犯罪者は、「自分たちのほうがマシ」「あのロリコンほどひどくない」「あいつらの脳はイカれてる」と見下すべき存在になっているわけです。

さすがにクリニックでは暴力団員が幅を利かせることはありませんが、同じ性犯罪歴を持つプログラム受講者のなかで、小児性犯罪者が白眼視される傾向に変わりはありません。

グループミーティングでは、正直に体験談を分かち合うことが前提となります。しかし、前述の理由から小児性愛障害者はこの段階でつまずいてしまいます。自分の行った加害行為に、どのような眼差しが世間から向けられるのかは彼らも十分に自覚しているので、治療の場でも正直に自己開示できず、孤立感や疎外感からドロップアウトしてしまうのです。

このような背景から、当院では子どもへの性暴力を犯した者に特化した治療グループを開始し、これまで200人以上が受講しています。

グループミーティングでは、ときに聞いている私たちスタッフですら気持ちが悪くなってしまうようなグロテスクな話も出てきます。しかし、小児性犯罪者が自らの加害行為を自分の言葉で語ることは、それを客観化し、説明責任を果たすことにもつながります

彼らはそれまで衝動性や支配欲、飼育欲にかられて、自分よりも弱い立場である子どもに性加害を繰り返してきましたが、言語化はその対極にある行為です。語りにくいからこそ、語れる場所があることで、加害者の衝動性や子どもへの加害欲求を自己統制する力を身につけていくのです。

排除と孤立が再犯を生む

小児性犯罪者のなかには、複雑な家庭環境を背景にしている人や過酷ないじめなどの逆境体験を持つ人も少なくありません。だからといって犯した罪が免責されるわけではありませんが、過酷な成育歴を持つ彼らが治療の場でも排除され続けてしまうと、結果的にもっとも脆弱な存在の子どもたちが彼らの餌食になってしまうリスクがあるのです。

居場所がない・大切な人がいない・希望がない」──人間はこの3つの条件が揃うと、犯罪に走ったり、自暴自棄になって加害行為に走ってしまうことがあります。社会のなかで自分が「ここにいていいんだ」と思える居場所がなく、「この人だけは裏切れない」と思う家族や友人がいなければ、孤立してしまいます。

加害行為を振り返ったとき、人生に希望が持てず、自暴自棄になって「自分が死ぬか、それとも他人を加害するか」と究極の二者択一を自問自答した末に、後者を選ぶことも珍しくありません。小児性犯罪者を監視し、社会から排除するだけでは根本的な解決にはならないのです。

個人的にはこういった治療を行う施設が増えていくことが望ましいと考える一方で、現実的には難しい課題が山積していることも理解しています。

自分の身を自分で守ることができない子どもを言葉巧みにグルーミングし、性加害に及ぶ小児性犯罪者に対しては「許しがたい」という社会の共通認識があります。その延長線上に「自分たちの生活から遠ざけて排除しよう」という意識があることも否めませんし、小さい子どもを持つ親御さんなら当然だと思います。もしも小児性犯罪者に特化した医療機関が小中学校など教育機関の近隣にできたら、周囲の住民や関係者からも反発の声が上がることは必至でしょう。

小児性犯罪者が治療を途中で挫折せず、つながりを維持しながら加害行為をやめ続けていくためにも、小児性犯罪者に特化した治療グループのあり方について、社会全体での議論がより一層深まることを願ってやみません。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か
斉藤章佳

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