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2024.07.05

画家ダリは亡くなった兄の「身代わり」だった…いびつな自己顕示欲を生んだ幼少期の体験

きょうだい(兄弟・姉妹)といつも比較されて育った。嫉妬や怒り、憧れをおぼえる。特別扱いされていると感じる。きょうだいのために我慢してきた……。少しでも当てはまると思ったあなたは、「きょうだいコンプレックス」を抱えているかもしれません! 精神科医、岡田尊司氏の『きょうだいコンプレックス』の一部を抜粋してご紹介します。

亡くなった兄の亡霊に囚われ続けた画家ダリ

きょうだい間のコンプレックスは、通常、共に生きたきょうだいに対して生じる。大きな存在であればあるほど、良い意味でも悪い意味でも、そのきょうだいに対する憧れや劣等感が、その人を支配しやすい。

だが、ときには、もう亡くなっているきょうだいが、その人の人生の中に大きな存在感を示して、支配する場合もある。

カミーユ・クローデルのケースも、ある意味、彼女が生まれたときにはすでに亡くなっていた兄が、彼女の人生に影響したと言えるが、亡くなったきょうだいの幻影に、もっと脅かされて育った例として、画家のサルバドール・ダリを挙げることができる。

サルバドール・ダリ(Roger Higgins, World Telegram staff photographer, Public domain, via Wikimedia Commons)

サルバドール・ダリには、同じサルバドール・ダリという名の兄がいた。兄が亡くなった後に、その身代わりとして生まれたのが、シュールレアリスムの画家として世界的な名声を得たサルバドール・ダリである。

しかし、両親にとっては、ダリは亡くなった息子の生まれ変わりでしかなかった。亡くなった息子のことが忘れられない両親は、生まれ変わりが生まれても、あまり満足せず、いつも亡くなった兄がどんなに素晴らしい子どもであったかをダリに聞かせた。

そして、毎週連れていかれる墓地には、自分と同じ名前が刻まれた墓があった。ダリは、両親から注がれる視線が自分ではなく、今は亡き兄に注がれているのを感じていた。ダリは、もう死んでしまった存在ではなく、この自分を見てと叫びたかったという。

こうした境遇は、ダリをいびつなまでに自己顕示欲の強い性格にしていく。

兄という亡霊に負けないためには、ダリは常に自分こそが本物のサルバドール・ダリだと主張しなければならなかったのだ。

心理学者の河合隼雄も、自伝の中で、彼が5歳のときに亡くなった弟のことに触れている。母親の悲しみと後悔は深く、お経ばかり読んでいたという。そして、ことあるごとに、亡くなった弟がどれほど優れていたかという話を聞かされたという。

河合が後に臨床心理学にたずさわることになったのには、弟の死が大きくかかわっていたと述べている。河合も、弟の亡霊から自分を救い出し、自己確立するために、無意識の呪縛と格闘する必要があったのだろう。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:きょうだいコンプレックス
岡田尊司

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