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2024.06.25

著書6冊出した元・日本一有名なニートの悩みは“自分のことしか書けないこと”

定職に就かず、家族を持たず、シェアハウス暮らし。社会的評価よりも自由に生きることを大事にしてきたphaさん。かつて「日本一有名なニート」ともいわれたphaさんは、どんな生き方を実践してきたのか? 著書『がんばらない練習』よりご紹介します。

何を書いても自分語りになる

文章を書くときに一つ悩みがある。それは自分のことしか書けないということだ。

僕は今までに本を六冊出しているのだけど、エッセイを書いても人生論を書いても、社会について書いても旅行記を書いても、書評を書いてもルポを書いても、何を書いても自分語りになってしまう。

文章の中に他人を登場させることも苦手で、ひたすら自分の考えたことや自分のしたことの話ばかりになる。多分他人にそんなに興味がないのだろう

(写真:iStock.com/kazuma seki)

まあそれはそれで一つのスタイルかもしれないけれど、自分以外の他者についてのことを書いている人のほうが、自分よりも大人だ、と憧れてしまう。

そんな風な文章ばかり書くようになった理由の一つは、僕がブログ出身だからかもしれない。

ブログだと、何を書いても「これは個人が趣味でやっているものだから細かいこと言うなよ」という言い訳ができる。世界中の誰でも見ることができる場所に文章を公開しておきながら、「これは別に見せるために書いてるわけじゃない」というフリができる。ひたすらうっとうしい自分語りを繰り返しても、「ここはお前の日記帳じゃない、チラシの裏にでも書いてろ」と注意されることがない場所、それがブログだ。

僕もそんな風に、本当は人に読んでほしいのに、これはあくまで自分用の日記だし、誰にも見られなくてもいいし、自分が十年後に読み返して楽しむために書いてるんだし、とかうそぶきながら文章を書いて公開していたので(卑怯)、それがだんだん多くの人に読まれるようになって、依頼を受けて文章を書くようになった今でもそのスタイルが抜けないのかもしれない。

僕の文章のスタート地点がブログではなく、ライターの仕事などで最初から人に見せることを目指して書き始めていたら、もっと他人の目線や評価を気にしたきっちりとした文章を書く人間になっていたのではないだろうか。

いや、でもよく考えたら、そもそも自分にはそんな文章は書けないな。自分のこと以外興味がないし、興味のないことは書けない。だから、ブログというツールがなかったら、僕の書く文章は世に出ることがなかったのではないかと思う。インターネットのある時代に生まれてラッキーだった。

成長すれば小説は書けるのか?

それはそれとして、やっぱり自分以外のことを書ける人のほうが偉いな、という気持ちがずっとある。

その最たるものが小説だ。小説って、架空の人間を何人も作り上げて、そのキャラクター同士のやりとりを全部想像で作るというものだから、とても高度な人間の社会性に対する理解がないと書けないものじゃないかと思うのだ。

(写真:iStock.com/HiddenCatch)

今までの人生で何度か小説を書いてみようと思ったことはあるけど、登場人物を動かすということがわざとらしくて照れくさくて全くできなかった。いや、それ以前に、登場人物に名前をつけるという段階でつらかった。本当はいない人間に斉藤とか別府とかゆり子とかいう名前をつけて自分の好きなように動かすなんて恥ずかしすぎる、と思った。

エッセイなどで本当にあったことを書くんだったら「これは僕が考えたのではなくて本当にあったことだから」って言い訳ができるけど、フィクションを書いてしまったら、そこに自分のセンスのなさや幼児性やコンプレックスがそのまま丸出しになってしまって、言い訳ができないような気がしたのだ。

小説を書けないことで、僕はひたすら現実の自分自身に関することしか興味がないし、自分が実際に感じたことしかわからないのだなあ、と思ったのだけど、「ひたすら自分のことばかり書いたり考えたりしてる」と人に言うと、「そんなに自分が好きなナルシストなのか」と聞かれたりする。

自分が好きかどうか、それもよくわからない。「自分が好きか」という問いは僕にとって「地球が好きか」とか「時間が好きか」という質問と同じで、それは「好きも嫌いもなく絶対の前提としてあるもの」でしかない。「自分が好き」と言える人は、他人と自分を比べたり、他人から見た自分の像を意識しているということなので、僕よりも社会性があるんじゃないだろうか、と思ったりする。

人間の成長段階として、若いうちは自分のことしか興味がないけれど、大人になるにつれてだんだん周りの人を大切にすることを覚えていって、さらに歳をとると地域や国など大きなものを大切にするようになる、という説がある。興味や関心が年齢や経験とともにだんだん拡大していくという話だ。

それが本当だったら、僕ももっと人間的に成長して、今よりもっと人間のことや社会のことが深くわかるようになったら、たくさんの人間が登場して動き回る小説を書いたりできるようになるのだろうか。そうしたらすごく面白いものができるはずだ。そんな日はずっと来ないような気がするけれど。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:がんばらない練習
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