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2024.04.11

「貿易船が日本の港を避ける!」輸送の遅れが招く“競争力低下”の深刻度

かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著です。2023年7月26日発売の幻冬舎新書『買い負ける日本』は、調達のスペシャリスト、坂口孝則さんが目撃した絶望的なモノ不足の現場と買い負けに至る構造的原因を分析。本書の一部を抜粋してお届けします。第4回。

※写真はイメージです  Ian Taylor/Unsplash

日本の港を避けることが恒常化

日本に寄る外航船の便数が減っている。日本は運んでもらえない国になっているのだ。

たとえば北米西岸コンテナ航路で、東京港に寄港した隻数の変化を見てみよう。2021年には前年比3割減の月が目立ち、2022年前半ではさらに前年比5割減となっている。

横浜港や大阪港、神戸港も2年連続で同じような前年比マイナスの月が目立つ。また、北米西岸コンテナ航路以外で確認しても、2021年には前年比で大幅な減少となっている。

もっとも、近年の寄港数減少は日本だけが引き起こしたとはいえない。2020年前半に新型コロナウイルス騒ぎがはじまった。そのときには全世界的に人びとの動きが止まり荷動きも止まった。しかししばらくすると反動として巣ごもり需要が高まった。

パソコンやテレビをこの時期に買い替えた読者は多いかもしれないが、とくに米国は景気刺激策もあって需要が激増した。中国や他のアジアから米国向けの貨物が伸びた。むしろ2020年後半からはコロナ禍前を上回るようになり、2021年前半にはピークを迎える。

しかし需要が旺盛なのはいいものの、供給面ではトラックドライバーなどの労働者が不足した。感染者は当然として、濃厚接触者も従業できなくなり、さらに処理しきれないコンテナがあふれ、倉庫の空きスペースもなくなった。

またコンテナ自体は主に中国で生産されているが、2020年は中国のゼロ・コロナ政策によって工場が稼働せず絶対数が不足した。

北米西海岸や中国などでは港湾の混雑が深刻化。海上運賃が高騰した。米国西海岸では100隻以上が停泊、あるいは低速運航を続け入港を待ち続ける異常事態が生じた。積地でも揚地でも遅延が発生。リードタイムが大幅に遅れた。

コロナ禍を原因として、日本に寄る予定だった隻数が減少してしまった。それ以上は遅れるわけにはいかなかったので船舶各社は日本を“素通り”した。たとえば米国から日本に寄って荷物を積むはずのコンテナ船が、時間がないからと空のコンテナのまま中国に向かう、などだ。これを抜港(ばっこう)と呼ぶ。

国際輸送では混乱が生じてしわ寄せをこうむる国があるのは必然だった。とはいえ、問題は、世界から限られたパイ=コンテナを日本が振り向けてもらえなかったことだ。

日本の優先度はもはや高くなかった。さきの例でいえば米国から日本に寄るよりも、早く中国に戻して次の便として出港したほうが儲かるためだ。

そもそも日本の港を避ける抜港は、阪神・淡路大震災がきっかけとされる。神戸港にどうしても寄れなかった船舶らは釜山港を利用した。1994年に世界6位の神戸港はそこから世界順位を落としていった。2021年は73位であった。一度、避けた船舶会社をふたたび日本に振り向かせるのは容易ではない。

多数の船が日本への寄港停止を選択

なお抜港だけではなく、定期的な航路を見直す動きもある。抜港は時代の流れのなかで例外的な事象かもしれないが、定期的な航路が見直され、日本への寄港が減っている。2021年以降、日本への寄港が停止された航路を抽出してみる。

⚫︎欧州・北米航路、サービス名「FP2」横浜:18隻(2021年4月)
⚫︎欧州・北米航路、サービス名「AE1」横浜:16隻(2021年4月)
⚫︎北米航路、サービス名「HBB/AAC2/CPS」東京:6隻(2021年4月前後)
⚫︎北米航路、サービス名「EC1」東京・神戸:11隻(2021年6月前後)

以上、どれも日本の国際競争力を考えると深刻な影響を及ぼす。2021年は2000年以降でコンテナ船の寄港数は最低となっている。

さきほどコロナ禍の反動から世界、とくに米国の需要が伸びたと書いた。しかし日本はその流れに乗ることができず、日本発のコンテナ輸送量は世界全体の1%ていどにすぎない。主役は中国や韓国、ベトナムの港発のものばかりになった。

また国際基幹航路である大洋州、アフリカ、中南米、欧州、北米の寄港回数の合計で他国と比べてみよう。シンガポール、上海、釜山は2010年から2021年まで国際基幹航路が寄港した回数/週を数えてみると、それぞれ100回、100回、75回ほどで安定している。

しかし日本には京阪、阪神の港では2010年の段階で53回、22回と、すでに低い状況にある。この圧倒的な回数の違いだけでも驚きだが、2021年には27回、12回とほぼ半減している。

2022年は円安で資源高が話題になった。いっぽう輸出はさほど伸びなかった。それは物流だけで語れるほど単純なものではない。ただ要因の一つとして航路をあげたい。

結果、日本から米国に出荷しようと思えば、韓国や中国の港にまず送り、それらの国経由で輸送するのが現実解となっている。もちろん日本企業としては航路の日数が延び、予想も難しくなる。延びる日数は2、3日の場合もあるが、状況によって10~20日のケースもある。なかには70日まで延びる場合がある。

当然ながら輸送が遅れれば、その分の競争力は低下する。さらにコンテナの積み下ろし等の回数が増えれば品質劣化や破損等のリスクが上昇する

たとえば、みなさんが外国の顧客で日本企業から機器等を購入するとする。その機器は必要不可欠なものであり評判の良い日本企業に決めた。しかし日本企業から「直行便がないため韓国経由で送る。いつそちらに届くかはわからない」と言われたらどうだろう。もちろん、だからといってすぐさま離れないかもしれない。ただ中長期的には他国からの購入を必ず検討するはずだ。

*   *   *

この続きは幻冬舎新書『買い負ける日本』をご覧ください。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:買い負ける日本
坂口孝則

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