スポーツ選手がそれぞれの競技で勝負するように、ビジネスパーソンは仕事で勝ちに行く。あらゆるシーンでスピードやタフネスが求められる現代のビジネスシーンでは、機敏に動ける俊敏性や瞬発力、ハードワークに負けないスタミナ、咄嗟の判断を下す反射神経、さらにはストレスに打ち勝つ持久力やメンタリティまで、求められる能力は、スポーツに向かうそれと何ら変わらない。実際、吉田輝幸トレーナーのもとには、メジャーリーガーをはじめとする世界レベルのアスリートのみならず、メディアで著名な経営者やビジネスパーソンがこぞって通う。「違い」がわかっているからだ。【吉田輝幸の目指せ!ビジネスアスリート第2弾①】
最高のパフォーマンスを出せる体をつくるためにすべきこと
「単に重さを競って自己満足するための筋トレや、自己流のルーティンによるランニングをしていても、はっきり言って意味がない。筋トレ・有酸素・ストレッチの“トレーニングの三種の神器”を自分は全部やってるよ、という方もいるかもしれませんが、これも知識不足によるミスリードです。ビジネスの場で最高のパフォーマンスを出せる体をつくるには、もっと多角的で包括的なアプローチでなくてはダメなんです」(吉田さん)
多角的かつ、包括的。具体的には、①体の使い方を改善して正しく動けるようにする「コレクティブエクササイズ」や、②筋肉のパワーや持久力を高める「レジスタンストレーニング」、③瞬発力を鍛える「プライオメトリクス」など、目的も内容もまったく異なる種類のトレーニングに、質の高い食事と休養もあわせ、全部で6つの要素で構成される。吉田さんはこれを、「ハイパフォーマンスな体という大きなギアを回すために連動して動く、6つの歯車」だと表現する。それぞれを見てみよう。
1.コレクティブエクササイズ
コレクティブ(Corrective)とは「矯正する・正しくする」の意味。姿勢や体の動かし方の機能不全やクセを改善して、正しい動きに導くメニュー。体幹の生かし方や、肩甲骨や股関節の使い方など、この部分をおろそかにしていると、本来使うべきではない部位に代償動作による負荷がかかって、思わぬ結果に。「正しい動きができない人がランニングを続けて、ふくらはぎが太くなってしまったり、怪我や疲労のもとにもる。効率的に動けて結果を出せる体づくりのためには、欠かせない要素です」(吉田さん)。
2.レジスタンストレーニング
筋肉自体を大きくして筋力をアップさせ、運動機能を向上させる。筋肉に抵抗(Resistance)をかけて行う、いわゆる筋トレ。「筋肉は体のエンジンだから、大きく強いに越したことはない」と吉田さん。人の筋肉というのは、25歳前後をピークにその後は低下の一途をたどる。定期的なトレーニングでエンジンを強化しなくては衰える一方だが、ここでも、押す力と引く力など満遍なく行うことが大切だ。自己流の偏ったメニューでは、機能面はもちろん見た目もバランスの悪い体形になるリスクが高い。
3.プライオメトリクス&ムーブメント
プライオ(Plyo)とはギリシャ語で「長さが伸びる」こと、ムーブメント(Movement)は跳ぶ、走る、止まる、曲がるなどの基礎的な動き。ジャンプなど瞬間的なパワーを要する素早い動きで、筋肉の急激な伸張を繰り返すことで瞬発力や弾性を高める。スポーツでは短距離走のスタートダッシュ力などに生かされるが、日常シーンでも、咄嗟に危険を回避できたり、階段を軽々駆け上がれたりなど、瞬時に動ける機敏な体に欠かせない力を養う。
4.ESD
Energy System Developmentすなわち「エネルギー供給システムの開発」。全身へのエネルギー供給の質を高めて、効率よく動ける体をつくるためのメニューだ。具体的には、全力疾走のような激しい有酸素運動と、その場足踏みのような穏やかなエクササイズを交互に繰り返すインターバルトレーニング。心肺機能に負荷をかけて全身への血流を促し心肺機能を高め、それにより全身の持久力もアップする。「心臓のパワーを底上げできれば、少ない労力で全身に血液(エネルギー)を送れるようになります。コスパの高い肉体になるわけです」(吉田さん)。トレーニング自体も高強度な運動を20秒、軽い運動10秒を数セットなど、短時間で効率よく。
5.リ・ジェネレーション
「運動」「休養」「栄養」という、トレーニングの三位一体のうちの「休養」に関わる部分。トレーニングで酷使した筋肉の疲労回復を促すストレッチや、筋膜リリースなど。ストレッチも自己流でただ「伸ばす」のではなく、正しいメソッドに基づくことが大切だ。たとえば、伸ばしたい筋肉を、伸ばす側ではなく収縮させる側に力を入れながら数秒行って脱力、再び繰り返すことで可動域が広がるPNF(神経筋促通法)ストレッチや、筋膜リリースには効果的なツールを用いるなど、賢く行いたい。
6.ニュートリション
三位一体の「栄養」も正しく取り入れる。高度なパフォーマンスを出せる体には、炭水化物や食物繊維、良質な脂質も必要だ。世間に流されてたんぱく質偏重に陥ることなく、必要な栄養素や食品は何か、それをいつ、どれだけ食べるか。食事は毎日の繰り返しだから、ルールを知れば習慣化でき、外食なども臨機応変に対応できるようになる。「食事に意識を向けることは、自分を知ること」だと、吉田さん。人間の体のつくりとそれによる栄養の仕組みは不変なのだから、「仕組みに基づく基本を押さえておけば、情報に惑わされることもなくなるでしょう」。
これら6つの要素をトータルで行うのが、ビジネスアスリートへの最短ルート。このうち③の瞬発力を高める「プライオメトリクス&ムーブメント」のエクササイズを、次回から紹介する。
次回から動画実践編スタート
Teruyuki Yoshida
パフォーマンス、スペシャリスト。トレーナー歴25年で数多くのトップアスリート指導からヒントを得て最短で最大の効果を出せる「コアパフォーマンス®︎」を考案し、数多くのトップアスリートやアーティスト、ビジネスパーソンのトレーニング指導をおこなっている。