1845年にドイツのザクセン州、グラスヒュッテの町に興った時計工房を起源とし、途切れることなくその技術と伝統を現代に伝えるマニュファクチュールの名門、グラスヒュッテ・オリジナル。今回は「セネタ・クロノメーター」に焦点を絞り、その完成されたデザインや優れた精度に受け継がれる、魅力の“根源”に迫る。
NEW MODEL|美しい配色に見る革新への欲求
ドイツ時計の技術の粋を集めた、エレガントでタイムレスな腕時計。新作の「セネタ・クロノメーター」は、ブランドのルーツを証明する存在だ。
沖から寄せる長い弓なりの線が船の両舷の下で白く砕け、数えきれないほどの水玉が高く飛び散っていく――。
新作「セネタ・クロノメーター」の波しぶきを彷彿とさせるようなブルー×シルバーの配色は、それ自体がこの時計の出自を明確に示す重要なエレメントでもある。本モデルのデザインは、かつて外洋航海に不可欠であったマリンクロノメーターに着想を得ているからだ。そしてドイツ・ザクセン州のグラスヒュッテはその製造地としても知られ、優れた精度と信頼性で世界的にも高く評価されていた。その伝統と実績を証明するタイムピースなのである。
例えば、センターに時分針、6時位置に秒表示、12時位置にパワーリザーブ表示を備える視認性の高いダイヤルデザイン。高精度と高性能を保証する、ドイツ・クロノメーター認証を取得した自社製手巻きムーブメントCal.58-08。いずれもマリンクロノメーターのDNAを忠実に受け継ぐ証であり、精度追求のために革新を続ける真摯なものづくりの賜物だ。
歴史的傑作に範を取りながらも古典の枠に収まらないこのモダンな時計は、ブランドの信念を物語っている。
HISTORY|大海で夢を追った男たちの“命綱”
勇敢な船乗りにとって極めて重要な計器とされたマリンクロノメーター。それは彼らを導いた道標であり、命綱であり、新たな航海術そのものだった。
15世紀半ばに幕を開けた大航海時代。当時の船乗りたちが最も恐れたものは、座礁や衝突のような海難事故、長期漂流による餓死や疫病であった。
18世紀の中頃にマリンクロノメーター(船舶用時計)が誕生するまで、そんな悲劇が今日では考えられないほど頻繁に起こっていた。その多くが、航海中に船の位置を知るための経度測定が困難であったことに起因する。測定には正確な時刻を知る必要があったのだが、陸上でさえ一日に数分程度は時刻がずれることが当たり前だった時代に、ましてや揺れが激しく、温度変化も著しい海上ではそれがとてつもなく難しかったことは容易に想像がつく。欧州各国は多額の懸賞金を出すなどして、国を挙げてこの問題に取り組んでいった。
そして18世紀中頃、イギリス人の大工ジョン・ハリソンが海上で正確に機能する持ち運び可能な時計を開発、今日の伝統的なマリンクロノメーターの開発へとつながっていく。それは木箱に収められ、ジンバルを搭載して文字盤が常に上を向く構造で、多くが船の海図台に設置されることとなった。
ジョン・ハリソンのこの発明は近代航法への道のみならず、時計製造の新境地を切り開いたといえる。ドイツ政府が19世紀末に帝国海軍の全戦艦に自国製のマリンクロノメーターを装備する計画を立てたことで、グラスヒュッテでもその製造を開始。1886年に最初のマリンクロノメーターが製造された。そしてハンブルクのドイツ海軍天文台のクロノメーター検定所はそのできばえに高評価をつけ、安定性と卓越した技術力に太鼓判を押す。
ここからグラスヒュッテの時計産業はさらに勢いづき、1970年代後半までの間におよそ1万3000個を製造、世界各国に顧客を抱えた。その後、GPSなどのナビゲーションシステムの登場でマリンクロノメーターの重要性は下がるも、船長たちの多くは現在でも、アナログ式の船舶用時計を船上に持ちこんでいるという。
そして2009年、彼の地に起源を持つグラスヒュッテ・オリジナルは、最新の技術力をもってその伝説的な船舶用時計をオマージュし、「セネタ・クロノメーター」という名の腕時計として新たに蘇らせた。各所にルーツを証明する伝統的意匠を採用し、高精度を実現することで歴史的傑作に最高の敬意を表している。
DESIGN|由緒ある伝統を現代に伝える意匠
「セネタ・クロノメーター」に用いられているデザインコード。その由緒ある意匠は自らの原点であり、次代に受け継ぐべき伝統だ。
ステップつきベゼル
階段状に段差を設けたベゼル。2019年よりスリム化したベゼルは、フラットに見えて実は段差がつけられている。
洋梨型針
先端が洋梨のように膨れている針。青焼きといわれる職人技による美しいブルースティールは、クラシカルな趣きがある。
ラウンドケース
真円形のケースに収まるダイヤル、6時位置の秒表示、12時位置のパワーリザーブ表示の配置は、船舶用時計と同じデザイン。
ローマンインデックス
スリムで繊細な書体のローマ数字によるインデックス。1880年代より受け継がれて、今なお色褪せることのない魅力を放つ。
レイルウェイ ミニッツデテント
ダイヤル外周に描かれた分目盛り。その名のとおり、鉄道の線路(レイルウェイ)を想起させ、正確性を物語るような印象も。
ACCURACY|精度に対する揺るぎない矜持
脈々と受け継がれる伝統的な時計製造技術を礎にして、絶えず技術革新を繰り返して研鑽を重ねてきた。不断の挑戦こそ、精度に対する揺るぎない矜持の源だ。
グラスヒュッテ・オリジナルは真のマニュファクチュールとして世界にその名を知られている。それはダイヤルを含む全部品の95%以上を自社で開発・製造するだけでなく、デザインから組み立て、装飾、検品といったほぼすべての工程を自社で一貫して行っているからだ。
さらには、そのための試作品や工具製造まで自社で行っている。「メイド・イン・ジャーマニー」の最高品質に誇りを持ち、高い基準の精度や耐久性を追求し続ける姿勢には特筆すべきものがある。
「セネタ・クロノメーター」を例に取れば、製品化されるにあたってすべてのモデルが、第三者機関であるチューリンゲン州度量衡管理局が定めた基準をクリアしたものだけに与えられる、ドイツ・クロノメーター認定を取得している。これは15日間のテストを通して、ムーブメントの歩度、振り角、振動数、防水性能などを測定するもので、5つの姿勢と3つの異なる温度下で行われる極めて厳格な試験だ。
そして忘れてはならないのが、高精度を誇るムーブメントを構成するあらゆる小さな部品にも、個別の装飾仕上げが施されているという点。面取り、電気化学作用によるメッキ、伝統的な研磨、いずれも芸術的な職人技を要するものばかり。優れた精度は美観を伴ってこそ、グラスヒュッテ・オリジナルの本領はまさにそこにある。
グラスヒュッテ・オリジナルの時計を手にすることは、ドイツ最上級のエンジニアリングとクラフツマンシップを掌中に収めることと同義なのだ。
COLUMN|独創性に溢れた1960年代のムードを刻む時計
「セネタ・クロノメーター」とともに、ブランドのDNAを色濃く継承するのが、「シックスティーズ コレクション」。ビート世代やヒッピームーブメント、ウッドストックなど、1960年代は若者によって多種多様なカウンターカルチャーが同時多発的に創出され、従来の価値観に大きな転換が起きた“自己表現の時代”だった。
本コレクションは、そんな時代をオマージュ。たしかな洗練と独創性を纏ったレトロデザインは、最新作でも健在である。
「シックスティーズ・スモールセコンド」は、ガルバニックシルバー文字盤の6時位置にスモールセコンドを初搭載。当時を彷彿とさせる書体やインデックス、ローズゴールド×マットグリーンの配色が特徴だ。
一方、「シックスティーズ・クロノグラフ・アニュアルエディション 2023」は、グレーグラデーションが目を引く。文字盤上には当時の工具や技法を用いて複雑かつ繊細なエンボス加工が施されている。いずれも往時のムードを刻む、美しき個性に溢れたタイムピースである。
問い合わせ
グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座 TEL:03-6254-7266