新興の富裕層を巻き込み、かつてない白熱した落札が繰り広げられる時計オークション。この連載では、ジャンルは一切問わず、高級時計のトレンドを占う注目の時計をフォーカスする。第5回は、パテック フィリップの永久カレンダー搭載クロノグラフを取り上げる。【連載 オークションから読む高級時計の行方】
コンプリケーションの巨匠による究極のコレクターズアイテム
ポール・ニューマンダイヤルをはじめとする、ロレックス「コスモグラフ デイトナ」の希少モデルと同様、出品される度にオークション会場を賑わす腕時計がある。
ヴィンテージに該当する腕時計式クロノグラフの分野において、パテック フィリップの永久カレンダー搭載クロノグラフのRef.1518とRef.2499は、究極のコレクターズアイテムだと言っても差し支えないだろう。
パテック フィリップの腕時計と聞くと、「カラトラバ」や「ノーチラス」の名が挙がることが多いと思うが、永久カレンダー搭載クロノグラフは同社の時計製造を支え続けてきた最も重要なモデルのひとつに数えられる。
パテック フィリップの腕時計におけるクロノグラフの歴史は1923年のスプリット秒針クロノグラフから始まり、'41年に永久カレンダー搭載クロノグラフのファーストモデルRef.1518が発表された。ケース径は35mmと現代の時計と比べると小ぶりのサイズで、永久カレンダー搭載クロノグラフ特有の黄金比率さながらの完璧な文字盤のレイアウトはこの時点ですでに完成されていた。
1941年から'54年の間で281本の製造されたRef.1518は、その大半がイエロゴールド、もしくはローズゴールド製のケースが占めている。最もレアなのが、4本のみしか製造されなかったステンレススチール製であり、そのうちの1本がフィリップスが2016年11月にスイスのジュネーブで開催したオークションで1100万2000スイスフラン(日本円で約11億9830万円)での落札され、腕時計及びステンレススチール製の時計では史上最高額(現在は第2位)となる記録を残した。
パテック フィリップの永久カレンダー搭載クロノグラフ史上の最高傑作だと呼び声の高いRef.2499は、1951年から'85年まで製造されたロングセラーであり、製造本数は349本と言われている。製造期間が長かったこともあって、バリエーションが非常に多く、クロノグラフプッシャーは角型から丸型に変更されたりと時代によってディテールが大きく異る。
Ref.2499の生産終了後、1987年に特別に発売された世界で2本しかないプラチナケースのRef.2499/100のほか、希少性の高いモデルが数多く存在するため、オークション関連の話題も事欠かない。
去る2022年4月25日、サザビーズが香港で開催した時計オークション「The Nevadian Collector」では、アメリカ出身のコレクターが所有する永久カレンダー搭載クロノグラフ3本を含む、40点のパテック フィリップの腕時計が出品。次回はこのオークションのハイライトについて述べようと思う。