土地の歴史や文化を含めたテロワールを活かしたまちづくりの動きが全国の各エリアでさらに活発になりつつある。かつて日常としてあった古き良き日本の趣が特別な体験に代わる場所。奈良県にある古民家を活用した「泊・食・湯」分離型の注目宿泊施設を、旅と日本酒を愛する橘ケンチ(EXILE)が訪れた。
宿泊の新しいカタチ「GOSE SENTO HOTEL」を橘ケンチ(EXILE)が体験した
葛城山の麓に江戸時代から変わらぬ街並が広がる奈良県御所市、通称「御所まち」。近世の伝統的な建物が守られてきた陣屋町には、昭和の香がそこかしこに残っており、喧騒とは無縁のゆったりとした時間が流れている。
ここに、2008年に廃業した銭湯・御所宝湯の再生を中心に、近隣に点在する計4棟の古民家で織りなすGOSE SENTO HOTELがある。橘ケンチが訪れた1棟目の古民家は「RITA御所」。その名はHE“RITA”GE(遺産・継承・伝統)に由来した、万年筆本舗であった建物を生まれ変わらせた宿泊施設だ。
時代を超えた静謐な空気の漂う空間のなか、手入れの行き届いた美しい緑溢れる中庭の景観を前にすると、じっくりと自分自身と向き合うことができる。
「今年初の小説を発表したのですが、この部屋で物思いにふけっていると、東京で生活をしていると見落としてしまいそうになっていた次回作のヒントが浮かんできそうです。自分の中でまだ整理のついていなかった発芽前の想い。何かきっかけのようなものに出逢えた気がします」と、2023年2月に処女小説『パーマネント・ブルー』を上梓したケンチは語る。
また、自転車屋であった当時の面影を残す2棟目の宿「チャリンコ」には、サドル、ベル、ハンドル、ペダルといったサイクルパーツにちなんだ名前を冠した部屋がある。愛車とともに泊まれるこの宿は、自転車好きにはたまらない。
サイクリストでなくとも、今なお江戸期の検地絵図が使えるほど葛城川の東西に姿を留める碁盤目状の通りを、レンタサイクルで散策するのがおすすめだ。昭和レトロに浸れるラウンジは共用スペースとなっており、気の合う仲間や旅で出会った人との語らう場になっている。
3棟目の洋食屋「ケムリ」で楽しむことのできる食事もこだわり抜かれている。
「大好きな日本酒の世界で常に学びを与えてくださる酒造会社のひとつ、油長酒造さんのお酒と地元食材とのペアリングをこの街のレストランで堪能できる。こんなに贅沢なことはありませんよね」
GOSE SENTO HOTELプロジェクトの一翼を担う「風の森」醸造元・油長酒造の地酒とともに非日常へと誘う料理の数々が饗されるコース形式のディナー、小鉢を始め栄養バランスの取れた和食によるモーニングと、朝夕ともに御所の豊かな食材がふんだんに盛り込まれている。
特に夕食については、葛や鴨に代表される御所ならではの大地の恵みを、懐かしくも新しいものと捉えて万人に愛される洋食として提案。風土や歴史、文化、農林漁業の営みを気鋭のシェフが料理に落としこむ。
そして、御所まち再発見の起点となるのが、4棟目の「御所宝湯」だ。
「人が集う場として、湯は現代のまちづくりのコンテンツとして有効だと感じます。何よりも温故知新の発想が活かされた御所宝湯は、日常と非日常が交錯する魅力的な湯屋ですね」
昔ながらの浴槽とフィンランド式サウナに露天水風呂があり、創業当時の姿を残しつつも清潔さや安全に配慮した最新設備を完備している。新設されたロビーでは牛乳やお酒の他、ご当地グッズを販売。
「泊・食・湯」を棟ごとに分離させた新しい街。「御所まち」には、日本人の琴線に触れる風情と、トレンドが街のいたるところで融合されていて面白い。