TikTokを中心に活動する縦型ショートドラマ制作集団「ごっこ倶楽部」は、たった3〜5分の短い動画で、SNSの総フォロワー220万人、累計再生数15億回を超える。その出演者の多くは無名であるにも関わらず、だ。映画ともテレビや配信ドラマとも違う、まったく新しいドラマの世界をリードしていく彼らに2回に渡って独占インタビュー。前編はその結成秘話、そしてビジネス・表現としての縦型ショートドラマを聞いた。■連載「NEXT GENERATIONS」とは
TikTok界に現れた新進気鋭のクリエイター集団
仕事の休憩中、無目的にSNSを眺めていて、流れてきたショートドラマ。特に見たいわけでもなかったのに、なんとなく眺めていたら妙に引き込まれ、気がついたら感動で号泣していた……なんて経験がある人も多いだろう。
たった3分でサクっと泣けて、リフレッシュし仕事に戻っていく。映画やテレビ、配信ドラマとも違う、映像作品との新しい付き合い方ができるのが縦型ショートドラマ。
「ごっこ倶楽部」は、現在(2023年8月時点)SNSの総フォロワー220万人、累計再生数15億回を超える、この縦型ショートドラマ界のトップ集団だ。
もともと俳優であった、創設メンバー5人が中心となり、2021年にTikTokアカウントに、ドラマ投稿を開始。出演・脚本・録音・撮影・衣装・編集すべてを自分たちで手掛け、年間200本以上のドラマをアップしてきた。
現在は企業からの案件オファーも増え、さらに2022年にはTikTokショートドラマの総再生回数、1作品あたりの平均再生回数1位を獲得。公開するドラマがほぼすべてバズる状態を今日まで続けている。
バズるルール
「コロナ禍に、中国のTikTokを見ていて、おすすめされる動画のほとんどがショートドラマであることに気づきました。どうしてショートドラマが流行るのか、どこまでが企業案件なのか、それぞれのアカウントは一体どうやってマネタイズされているのか、それをひたすら研究してみたんです。それが最初でした」
ごっこ倶楽部の創設者であり、現在は作品の監督・構成・脚本を手掛ける多田智(たださとし)はアカウント誕生のきっかけをそう語りはじめた。
「当時日本ではまだTikTokのショートドラマってそんなに流行っていなくて。でも中国では大きな市場になっていましたから、であればきっと日本でもできるはず、大きなチャンスだ、そう思ったんです。1年以内に会社にするつもりで、すぐにチームとアカウントをつくりました」
多田は、中国と日本にルーツを持ち、日本にやってきたのは15歳の頃。ひたすら日本のドラマや映画を見て日本語を学んでいくうちに、役者という仕事に憧れた。
以後は役者になるための修行に励み、18歳からは舞台を中心に活動。多くの信頼できる役者仲間もできた。そのなかから創設メンバーである4人の俳優に声をかけ、ごっこ倶楽部が誕生したのだ。
結成9ヵ月で47万フォロワー獲得、再生回数は1億6000万回を突破。「結成1年以内に会社にする」。その当初の目標どおり、アカウント誕生から10ヵ月で「ごっこ倶楽部」を法人化した。
動画にはいわゆる著名人は出演していない。けれども不思議なもので、作品はパッと目に飛び込んできやすく、すぐに引き込まれてしまう。いったいこれはなぜなのだろう。そこには、確実な「バズるルール」があるからだと多田は言う。
「TikTokは最初のつかみの2秒が大事。誰が出ているかではなく、そこでどういうセリフを言わせるのかが要です。
普通ドラマは起承転結があるとか三幕構成であるとか、一般的な脚本のつくり方に従ってできていますが、TikTokの縦型ショートドラマは違う。最初の2秒でハプニング、つまり『起承転結』の『転』を持ってくる。そこで引きつけて、あとから『起承』をやればいいんです。
でも最近はさらに変わってきて、いっそうスピード感が求められています。なので、思い切って『転結』のみにすることも。
これまで『起承』で説明してきた人物の関係性や背景は、『結』の部分にセリフとして入れ込んでしまうんです。例えば最後のセリフで『ありがとうお兄ちゃん』とか入れると、この2人は兄弟だったんだと説明できるとか、そういうことですね。
あとは、『結』と思わせておいての、終わってない感もドラマづくりでは重要です。あれ?この話終わった?終わってない?と混乱させるんです。なぜなら1回見て終わりでは再生回数は伸びないから。何度も見てもらえるように仕掛けています」
ごっこ倶楽部をつくった男たちの正体とは?
多田含めて創設メンバーの5人の役者には、演じること以外にもそれぞれ役割がある。
脚本も手掛ける鈴木浩文はごっこ倶楽部の作品に奥行きを持たせることを意識しているという。
「脚本を書く時、多田が今言ったようなルール、ごっこ倶楽部の脚本のマニュアルは意識していますが、けれどそれだけではいずれ飽きられてしまう。僕自身も役者ですから、あえて役者に任せる部分もつくります。展開が速い作品のなかで、一瞬展開を遅くして、さぁどう演じる?という間を作るんです」
鈴木は、かつて銀行員として働いていた経歴がある。脱サラ後、役者の養成所の願書と、小説の公募を同時に提出。先に連絡が来た道へ行こうと決めた。
結果役者の道に進んだが、ごっこ倶楽部に合流したことで、脚本家としてそのものを書くことの思いを成就させることができたという。
多田は言う。
「ひろくんの脚本はある意味、ごっこ倶楽部が次のフェーズに行くためのもの。3分のショートドラマ以外の世界に出ていく時にすごく大事になると思います。役者陣も、ひろくんの脚本だとピリっとするんですよね」
監督や助監督を務めるのは早坂架威(かい)。
「結成当時は出演もして、スタジオも抑えて、香盤表つくって、撮影の段取りもする、この5人のなかで1番年下なので、パシリのような役割でした(笑)。最近は、僕も監督をやらせてもらっています」
それを聞いて多田は、「パシリ以上だよ」と笑う。ごっこ倶楽部に誘ったきっかけは、早坂氏の初舞台を見たことだった。
「クセが多い役者陣のなかで、常に気を遣って動いていて、周りが見れる人だと思った。彼なら、裏方としても作品づくりに貢献できるし、いずれ監督もできるとすぐに思いました」(多田)
多田がごっこ倶楽部を始めるにあたり、早坂はそれまでの仕事をやめて二つ返事で合流。ともに制作を手掛けてきた。立ち上げ当初は、制作費を多田とともに自腹で出していたこともあったという。
「周りの友達には、騙されているぞ、なんて言われていましたけど。絶対に取り返せるという確信がありましたし、実際ごっこ倶楽部は2回目の投稿からすぐにバズったので、ほら見たことかと(笑)」
出演に加えて、作品の衣装を担当するのが渡辺大貴。若手俳優の登竜門とも呼ばれる『ごくせん』シリーズに出演していたこともある。
「なんですが、その後鳴かず飛ばずで(笑)。ごっこ倶楽部に入ってやっと居場所が安定したような気がします。もともとファッションに興味があり、僕がここでできることといえば、衣装なのかなと」
1日に3作品6本のドラマを撮影する日もあり、日々衣装の手配に奔走する。セリフを覚え、役者としての仕事をしながら、アパレルブランドを回り衣装を手に入れ、毎日できあがってくる脚本にあわせて、次々と衣装イメージを考えていく。
正直、スタイリストという仕事は、俳優と兼任するとかなりの激務になる。しかし数をこなし多くのスタイリングを組んでいくなかで、自身の哲学が固まり、ついに自身のブランド「_MOOD」を立ち上げるにいたった。
「イケメンって、芝居に自意識が出やすいんですが、大貴くんはそうではなかった。本当に芝居が好きで、芝居のためにはなんでもしてくれる人。実はごっこ倶楽部で最初に誘ったのは彼です」(多田)
キャスティングを手掛け、演技全体を監修するのは、谷沢龍馬(たにざわりゅうま)。
東京理科大学の大学院を卒業後、役者として映画やドラマに出演。多田が谷沢に惚れ込んだ理由が、「典型的な役者バカ」だったからだという。
「智と呑んだ日、夜遅くなってしまったので俺の家に泊まればと言ったんです。部屋は大量のウイスキーの空き瓶で散らかっていて、まぁ役者ってそういう自堕落なところがあるのがカッコいいと思っていましたので(笑)。それを見て智は、ビビッと来たようです(笑)」
多田は、実はごっこ倶楽部に谷沢を誘った時点ではまだ、その芝居を見たことはなかった。ウィスキーの空き瓶が部屋に大量に転がる様子だけで、チームに誘うことを決めたのだ。
「役者の典型みたいな人だ! これでいい役者じゃなかったらダメ人間過ぎる、こいつは絶対いい役者なはずだと思いました(笑)。そしてなにより声に惚れました。そもそも声がいい役者って、いい演技をするんですよ」(多田)
その直感は見事に当たり、現在谷沢は、多くのキャストを取りまとめ演技指導を行いながら、ドラマのクオリティを上げ続ける存在になった。
後編に続く。
■ごっこ倶楽部
2021年結成。TikTokにオリジナルのショートドラマを投稿し、SNSの総フォロワー220万人、累計再生数15億回を超える。2022年に法人化、制作スタッフ・役者を社員として雇いハイペースで動画を投稿する。TikTok:@gokko5club/YouTube/Instagram:@gokko5club/Twitter(現X):@gokko5club
■連載「NEXT GENERATIONS」とは
新世代のアーティストやクリエイター、表現者の仕事観に迫る連載。毎回、さまざまな業界で活躍する10~20代の“若手”に、現在の職業にいたった経緯や、今取り組んでいる仕事について、これからの展望などを聞き、それぞれが持つ独自の“仕事論”を紹介する。