ワインのない人生なんて、血の通ってない人生だ! 経営者やクリエイターが愛してやまない偏愛ワインを紹介する。 【特集 情熱の酒】

至極の3本を空ける領家氏。基本的にはみんなで楽しく、がモットーだが、いざワインと対峙する姿はまるで武士そのもの。ドメーヌ・G・ルーミエやジャッキー・トルショー シャルムなど舌鼓を打つ。
ワインも仕事も究めて開く世界がある
DRC、ルーミエ、ドーヴネ、ジャッキー・トルショー……。名だたるつくり手のヴィンテージ・ブルゴーニュが揃う元麻布の会員制ワインバー&レストラン「ROZAN」。在庫はおよそ4000本。総額にして億を超える在庫を抱えるワイン愛好家垂涎の店だ。
領家 航氏はこの店の共同オーナー。本業はデジタル・マーケティングだが、20年ほど前からワイン、とりわけブルゴーニュワインの虜になっていた領家氏は、本格的なフランス料理とブルゴーニュ古酒の品揃えで名をはせた「ボン・ピナール」のオーナーが引退を考えていると知り、友人と店を引き継ぐことを決意。2022年5月に「ROZAN」と名前を替えてオープンした。
「飲み頃を迎えた最高の状態のワインと料理のペアリングを提供したいんです」

領家氏がたどりついた至高のワイン4本。「崇高な存在で赤白ともにどこまでも追い続けたい」ルロワ、「エレガントの極み」のルーミエ、「入手困難ゆえに深まる愛」のジャイエ、「飲んだ瞬間しびれた!」と惚れこむトルショー。
料理は日本料理の名店「豪龍久保」が監修をし、店の統括はミシュランガイド三ツ星レストラン出身の腕利きソムリエ、金澤裕輔氏に任せた。
領家氏がワインを飲み始めたのは大学生時代。比較的リーズナブルなイタリアワインばかりを嗜んでいたという。
「とはいえ、当時は食事と一緒に楽しむ程度で、特に強い思い入れはありませんでした」

同年代の経営者仲間とともに定期的にワイン会を主催。その豪華な顔ぶれはワインがつないだ縁でもある。
ワインに興味を持ち始めたのは、1本のワインを飲み進めるうちに、最初の一杯と最後の一杯では風味が変化していくことに気がついてからだと続ける。ブルゴーニュワインにハマったきっかけは、2006年、GMO時代に飲んだDRCのモンラッシェ。
「グラスに注いだ瞬間、まるで花畑にいるような華やかな芳香が部屋中に広がり、口に含むと鼻孔をも染め上げるような豊かな味わいに、なんだこれは! と鮮烈なショックを受けました」
すぐに国内外のインポーターやワイン商、オークションを通じてブルゴーニュワインの収集をスタート。以来、膨大かつ希少なワインコレクションは増え続け、必然と見識も深めてきた。

「家族の記念日には必ず開ける」というアムルーズはつくり手違いで50本は所有している。
「でも、ひとつのことを究めるというのは、仕事のうえでもとても重要なことなんです。何かを究めたり、ひとつ突き詰めたものがあると、その先に新たな発見があり、世界が広がる。企業のマーケティングやブランドのコンサルタントという仕事にとって、表層的な知識だけでは不十分。クライアントに必要な、本質を摑むビジョンを提供するためには、課題と向き合う集中力と情熱が必要です。ひとつのことを究めた人間には、どんな分野でもそれができると思っています」
また、“ワインは大切なコミュニケーションツールのひとつ”とも語る。部下や後輩との飲み会で親睦を深めるのはもちろん、新規クライアントとの会食にも、ワインがあると共通の話題で話がはずみ、一気に距離が縮まるという。

DRCやルロワなど希少なワインが無造作に置かれた自宅のワインセラー。床を補強したワインルームには700本強をストック。
同年代で切磋琢磨している経営者仲間とも、お互いの趣味であるワインを通じて互いの絆を深めてきた。
「たとえ同じつくり手、畑、ヴィンテージであっても、ワインは開けた時によって味わいが異なる。そんな一期一会をともにすることで連帯感が生まれるんです。仕事の新たなインスピレーションを受けることもありますから。ワインは僕にとって、公私ともに世界を広げてくれる存在なんです」

Wataru Ryoke
1978年東京生まれ。2001年、GMOインターネットに新卒第1期生入社。マーケティング、新規事業開発、M&Aを担当。その後’09年にRFA digital brainsを起業。食品メーカーや自動車、化粧品など多くの企業課題に従事している。