三浦瑠麗さんの娘は、小学5年生にして、掃除・洗濯・料理といった身の回りのことは一通りできるほど、生活能力が高い。自立した子供にすべく、三浦さんが実践してきたメソッドを聞いた。連載「イノベーターの子育て論」とは……
家事はお手伝いではない。自らやるべきもの
「娘は、小学校に入った時には、掃除や洗濯、食事の後片づけ、簡単な料理まで、できるようになっていました。彼女にとってそれは、“お手伝い”ではなく“自分がやるべきこと”なんです」
子供が洗濯機を回し、「ママ、お手伝いしたよ! 」「あら、偉いわね! ありがとう」といった会話は、三浦家では成立しない。父と母は共に外で働き、家族の生計を支えている。ならば子供といえども、家族の一員として、家事の一端を担うのは当然のこと。その意識を、娘が物心つく頃から刷り込んできたという。
もっとも、理屈を解いたわけではなく、「家のことは、家族みんなでやるのが当たり前だから教えてあげる」というスタンス。幼い頃からやらせれば、それは、歯を磨く、髪をとくといった、日常の所作のひとつとして自然にできるようになるというのが、三浦さんの考えだ。
「楽しみながらできることをと思い、最初はお料理から始めました。娘が3歳になった頃、いっしょにキッチンに立ち、煮干しの頭をとらせたんです。子供の手は小さいので、そうした細かい作業に、案外向いているんですよ。洗濯機を回させたのは5歳頃だったかな。食洗器も、最初にお皿をどう入れるかといったルールを教え、数回、私が操作するのを見せた後は、ひとりでやらせました。私のおしゃれ着を乾燥機に入れて縮ませてしまうなんて失敗をしたこともありましたが、今では、自分の大好きな服を、それはそれは丁寧に洗っています(笑)」
親子のヒエラルキーはあった方がいい
自ら動くことを厭わない。それは、三浦さんの両親が実践していたことだ。そして、これもまた、幼いうちから意識させることがカギになる。
「私は、親子のヒエラルキーはあった方がよいと思っています。お母さんひとりがキッチンで立ち働いていて、お父さんと子供たちはリビングでテレビを見ているというのは、よくないですね。我が家では、娘がもっと小さい頃から、『お水を1杯くんできて』『寝室からママのスマホを持ってきて』と、しょっちゅう使い立てをしていました。娘は、『ママは、仕事があるのに家事もしていて、我が家で一番大変なんだから、私も役に立つ人間になるわ』という意識でいます」
家族の役に立つために、自ら進んで体を動かす。そんな献身的な子供にするのに有効なのは、生き物を飼うこと。自分が世話をしなければ、命を落としてしまう存在がいるという経験は、他者を軽んじて身勝手に振る舞う=野放図に生きないことにつながるという。
「娘が生まれた当時は犬が3匹、今は、猫2匹と犬1匹を飼っています。長野にある別荘では、娘がハーブを育てたがっているんですが、土壌がよくないのか、手をかけないとすぐ枯れてしまうんです。娘はそこでも、自分が動くことの大切さを実感していますね。
長野では、植物を育てる以外にも、林を散策し、木の枝を拾って創作するなど、自然に触れる体験も与えてきました。情操教育とは、五感を刺激すること。自然をひたすら感じることは、情操教育の最たるものだと思います」
習いごと=学校とは別の世界を持つこと
もっとも、習いごとに関しては、三浦さんの生家とは事情が異なるようで、「本人が希望したものは、なるべくやらせてあげる」のがモットー。これまでに、バレエにお絵描き、ピアノ、バイオリン、スイミングなどを習わせ、バレエ以外は今も続けているという。いずれも、「友達が通っているから」といった理由を含め、本人がやりたいと言ったものが中心だ。
とはいえ、初めての習いごととしてバレエ教室に通わせたのは、三浦さんが独立する前。勤務先を抜けて教室に送迎し、レッスン中は近くでPCを広げて作業するなど、スケジュールのやりくりには苦労したそう。それでも、習いごとをバックアップしたのは、1日の大半を保育園で過ごしていては、幼い子といえども飽きるだろうと考えたからだ。
「習いごとには、学校などとは違う世界を持てるという側面があります。今の娘を見ていても、その違う世界を楽しんでいる気がしますね。今の習いごとが、将来に直結するかどうかはわかりません。けれど、いつか、どこかで、その経験が生かされることがあるだろうとは思います」
最近は落語や日本の伝統文化などにも興味を持つなど、習いごとだけでなく、趣味も多い娘。好きなことに存分に時間を費やそうと、三浦家は、中学受験はしないという選択をした。
「娘の周りでは、受験が理由で、大好きな習いごとを辞めるケースがとても多いんですね。そして学校が終わった後に、週4回、1日3~4時間、塾で勉強するわけです。そういう時間の使い方がいいのか、それとも他にやりたいことがあるのか。娘とも話し合い、自分がやりたいことに時間を使うために、受験はせず、公立の中学に進むことにしました」
■三浦瑠麗を育てた「お金より手」をかける家庭環境。庭でニワトリ、カセットで音読etc.(Vol.1)
■親の体面主義になってないか? 受験に潜むリスクを問う(Vol.3)
Lully Miura
1980年神奈川県生まれ。東京大学農学部を卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程を修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師を経て、山猫総合研究所代表取締役。博士論文を元にした『シビリアンの戦争――デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)でデビュー。『孤独の意味も、女であることの味わいも』『21世紀の戦争と平和――徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』などの著書があり、「朝まで生テレビ!」「めざまし8」「ワイドナショー」「クローズアップ現代+」といったテレビ番組などメディアでも活躍。
連載「イノベーターの子育て論」とは……
ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。