独特の存在感と演技で観る人の心をグッと掴む役者、ムロツヨシ。2022年7月31日から放映・配信中のドラマ『雨に消えた向日葵』(WOWOW)では、暗い過去を背負った刑事、奈良健市を演じる。40代半ばを迎え、新たな欲が出てきたと打ち明けるムロツヨシの素顔に迫った。
若い世代と交流するなかで教えられたこと
映画、テレビ、舞台と、幅広く活躍する俳優、ムロツヨシ。コメディ作品への出演が多い印象だが、近年はシリアスな役にも挑戦。放映中のドラマ『雨に消えた向日葵』(WOWOW)では、暗い過去を背負った刑事、奈良健市を演じる。
「正義感からくる罪悪感なのか、罪悪感からくる正義感なのか。いずれにしても、奈良は使命感だけで生きているような人物。覚悟を持って臨んだつもりですが、心が休まる瞬間のない、キツい役でしたね。
僕は共演者やスタッフと楽しくお喋りしたいほうなのですが、それも今回は封印しました。『本番!』の声がかかった途端、それまでふざけていたのに、スッと役に入りこむ。そういうのができないので。本当は『あの人、オンとオフの切り替えがすごいよね』なんて言われてみたいんですけどね(笑)」
下積みが長かったこともあり、40歳過ぎまではどんなオファーもスケジュールさえ許せば受けてきた。しかし、40代半ばを迎えた今、「"面白くて、いい人"というパブリックイメージを壊したいという欲が出てきた」と打ち明ける。
「自分の存在を世に知らしめるために、皆さんが求めるイメージを演じてきた節があるんですよ。でも、そろそろ"職業ムロツヨシ"ではなく、"役者ムロツヨシ"を大切にしてもいいんじゃないかと。
この作品は役者ムロツヨシの新たな一面を見ていただくよい機会だと思いますし、僕自身、『オレって、こんな表情や佇まいをするんだ』という発見がありました。この年齢で、奈良健市役に出会えたのは喜びでしかないですね。最終話を観終わって泣いてしまったくらい」
19歳で役者を志し、もがきながら一段ずつ階段を上がり、今のポジションまで上り詰めた。とはいえ、若い頃と同じやり方ではその先には進めない。
「何歳になっても輝いている方々に共通するのは、柔軟性だと思います。時代の変化を嘆いたり否定したりするのではなく、次に来るものを見抜き、ヒントになることを、後輩たちに伝えていく姿勢というか……。
ありがたいことに主役をやらせていただく機会も増えましたが、僕はまだまだリーダーに成りきれてはいません。でも、周りを引っ張ることから逃げてはいけないと思っています。プレッシャーを糧にして、もっともがき、苦しまないと」
若い世代と交流するなかで、教えられることもある。
「昔は『熱い想いをぶつければ人は動いてくれる!』と思いこんでいましたが、それは違うということを最近悟りました(笑)。どんな言葉を使えば、世代もバックグラウンドも、経験も違う人たちに自分の想いが伝わるか、今、試行錯誤の真っ最中です。
難しいけれど、その作業のなかで、自分の考えが整理されることもあるんですよね。人として成長している? そうだと嬉しいですね」
芝居に100点満点はないが、100点満点を目指してやっているかどうかは、常に試されている。そう言ったあと、ムロは「役者って気持ちが悪い人種なんですよ。満点はないとわかっていながら、それを目指して人前に自分をさらしに行くんですから」と、笑う。
「でも、どこかで自分に期待しているし、『今の状況に安心せず、もっと怖がって、チャレンジしろよ』とも思っています。60歳過ぎたら、セリフを書いた紙をあちこちに置いて、ぶっつけ本番で演じたいですね。セリフを覚えるという、苦しいところは抜きで、お芝居の楽しいところだけを味わえそう。でもまだしばらくはもがき続けますよ」
進化し続ける役者ムロツヨシに、これからも目が離せない。
『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』
豪雨のなか、向日葵が咲く田んぼ道で小学5 年生の少女が突然消えた。誘拐か、事故か、それとも両親の不仲を悩んでの家出か。吉川英梨の同名小説を原作に、妹を守れなかった後悔を背負いながら、失踪の真相を追う刑事(ムロツヨシ)と、必死に娘を探す家族の葛藤を描いた極上のヒューマンミステリー。
原作:吉川英梨『雨に消えた向日葵』(幻冬舎文庫)
出演:ムロツヨシ、平岩 紙、今野浩喜、遊井亮子、堀部圭亮、中越典子、佐藤隆太ほか
WOWOWにて毎週日曜22:00~放送/WOWOWオンデマンドにて配信中(全5 話)。