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共同オーナー制度でBリーグを席巻する:北村 正揮

西宮ストークス 代表取締役
北村 正揮

創設6年目を迎えた男子バスケットボールのBリーグで、異例の共同オーナー制を敷くクラブがある。兵庫県西宮市に本拠地を置くB2の西宮ストークスは、「新B1」の位置づけで2026年にスタートするトップリーグ入りを目指し、今季から新体制でチーム改革に乗りだした。2024年には、神戸港に新たなホームアリーナも完成予定。志をともにする仲間と一緒に高い理想を掲げて奔走する北村正揮代表に迫った。


チームを一段飛ばしで成長させるために

白熱するコートに視線を向ける時間は短い。11月13日、本拠地・西宮市立中央体育館で開催されたB2リーグの福島ファイヤーボンズ戦。西宮ストークスで陣頭指揮を執る北村正揮代表取締役は忙しなく会場内を動き回っていた。プレイに一喜一憂している暇はない。クラブの成長に役立つ情報をひとつでも多く入手するため、ブースターやスタッフとの対話に精を出した。「ストークスのために新しい情報をキャッチすることを常に意識しています。それをチームにインプットし、新しい形でアウトプットする。例えばスタッフが1日100個の情報をキャッチして、僕が50個しかできなければ、それはクラブに貢献できていないということ。危機感を持ってやっています」

バスケの経験はなく、高校時代は野球部。地方大会で早期敗退するレベルだった。高校卒業後は夢もなくフリーターとなり、都内の喫茶店で調理補佐に従事。その頃、プロ野球の野茂英雄が大リーグで活躍して広くメディアに取り上げられたことで、GMやマーケティング、通訳など選手以外にもスポーツに関わる幅広い仕事があることを知った。

本場でスポーツビジネスを学ぶため、米国に留学。英語がまったく話せない状態から語学学校、短大を経て、ワシントン州立大に編入した。短大時代には日本人グループで過ごす時間が増えたことに危機感を覚え、野球部に入部。米国人ふたりと共同生活を送り、語学力を養った。コーチング、クラブ経営学、スポーツの法律などを学び、帰国。複数の国内クラブに履歴書を送ったが、採用されず、1年間はアディダスの直営店で販売員のアルバイトを経験した。

「日本に戻っても就職先がありませんでした。頭でっかちで、現場では即戦力で使えなかったのだと思う。販売員のアルバイトは貴重な経験でした。アディダスの靴を買ってもらうためには商品の魅力を伝えることが大切。クラブの魅力を発信する今の仕事と重なる部分は多い」

2007年に当時日本プロバスケットボールリーグ(bjリーグ)の大阪エヴェッサに通訳で採用された。外国人選手との交渉窓口や試合の運営、演出など通訳の枠を超えた仕事をこなし、’10年に西宮ストークスの前身である兵庫ストークスの初代GMに就任。チーム立ち上げの中心を担った。’14年からは一時チームを離れ、3×3(3人制バスケ)の普及に尽力。東京五輪は国際バスケットボール連盟(FIBA)のスタッフとして運営に携わった。西宮ストークスの個人オーナーを務め、共同オーナー制や新アリーナ建設計画を進めてきたスマートバリュー渋谷順代表からオファーを受け、五輪後に社長に就任。コネストというホームタウンアクションを立ち上げたり、YouTubeなどデジタルでの戦略を強化するなど改革をスタートさせた。

新B1の創設までにチームの強い基盤をつくる

Bリーグは’16年に発足。新型コロナウイルスによる入場制限の影響を受けるまでは右肩上がりで成長を続け、今後も市場拡大が予想される。今季はB1(1部)が東西各11チームの計22チーム、B2(2部)が東西各7チームの計14チームで構成。’26年に“新B1”と位置づけたリーグに移行し、売上げや平均入場者数などの入会基準を大幅に引き上げることが決まっている。米NBAに次ぐ世界第2位のリーグにすることを掲げ、新基準の売上げは現行の4倍となる12億円以上、平均入場者数は4000人以上に設定された。アリーナ基準の収容5000席以上は維持されるが、スイートルーム設置などの新項目が加わる。

近年のBリーグは今の時代を象徴するベンチャー企業が次々と参入し、オーナーチェンジが盛んに行われている。’17年にはDeNAが川崎ブレイブサンダースを東芝から買収。’19年にはミクシィが千葉ジェッツの経営権を取得した。ジャパネットたかたは将来のB1参入を目指して長崎ヴェルカを発足させ、今季からB3に参戦。

そんななか、西宮ストークスは6社による異例の共同オーナー制を敷く。’15年から個人でオーナーを務めた渋谷が経営を軌道に乗せ、次のステージに向けて仲間を募った。「純投資ではない。お金儲けにはならない」と予め断ったうえで、若手経営者を中心に声をかけ、志をともにするメンバーが集まった。

   
11月中旬、本拠地となる西宮市立中央体育館で開かれた、第1回オーナー会議では、初めてオーナー全員が顔を合わせた。メンバーは、i-plug代表取締役CEO中野智哉、サンワカンパニー代表取締役社長山根太郎、ダイレクトマーケティングミックス代表取締役小林祐樹、SRCグループCEO横山剛に、北村と渋谷を加えた6人。北村を除く面々はビジネスで実績があり、顔見知りがほとんどだった。会議は約1時間。北村はクラブの現状やビジョン、中長期計画、目標達成に向けた課題を丁寧に説明した。

「私だけ初めましてのような感じで緊張しました。皆さんビジネス業界で成功されている方々。アライアンスを組むからには絶対に成功させないといけないと思っています。ビジネスの大先輩の前で偉そうにビジョンを語るのはプレッシャーで、会議の直前は逃げだしたくなりました。でも、会議のなかで共同事業体として真剣に取り組んでいこうというメッセージをいただき、心強かった」

神戸・三宮のウォーターフロント「新港突堤西地区」に完成予定の新本拠地。収容1万人規模(バスケは8000人)で、西宮ストークスの兄弟会社One Bright KOBEが運営する。SDGs対応の最先端アリーナ。年間30試合前後の開催となるバスケのほか、コンサート、国際会議などにも活用される。2024年完成予定。

「経営状況に左右されない、ロングランできるチームに育てたい」

共同オーナーは「UNITED of STORKS」として、結束力を高めてチーム運営を進めていく方針。現在チームはB2西地区で上位争いを演じており、来季のB1昇格、’26年の新B1参入をノルマに掲げる。目標達成にはチームの成績に加え、今後5年で売上げを約3倍、平均入場者数を約7倍にすることが条件。’24年には神戸港のウォーターフロント地区に1万人規模の新アリーナが完成予定で、最先端の本拠地の魅力を生かして地域を巻きこんだ“熱”をつくりだすことがカギとなる。就職活動用の登録サイトを持つi-plugから接点の多い大学生を観客動員する施策を提案されるなど、共同オーナーの業種を生かした戦略も進行中だ。

北村は米国留学やFIBAの仕事で培った人脈を生かし、海外の情報にもアンテナを張る。「チームとして地域に長く存続し、関わるすべての方々の幸せで豊かな時間をつくりたい。バスケはその大きな可能性を秘めていると感じています。これまで、会社の業績にチームの運命が左右されてきたクラブは数多くありましたが、共同オーナーならば、そのリスクを格段に減らすことができる。選手は存分にプレイに集中できますし、我々も、チームの未来はもちろん、西宮や神戸の街を巻きこんだ施策に乗りだせます。共同オーナーと一緒の船に乗り、明確な目標に向かって、一歩踏みだしました。ユニークなクラブの代表として、兵庫だけでなく、他県からも注目されるチームに躍進させます」

西宮ストークスの選手が語る未来

【目標はB1昇格ではなく、B1でやっていけるチーム】
西宮ストークスは、状況判断の差や単純なミスなどB1との差を感じるところはまだまだありますが、ポテンシャルは十分にあるチームだと感じています。新しいB1は選手にとって高いモチベーションになる。自分がB1で味わった経験を上手くチームに伝えて、優勝争いができるようなチームに、すぐに成長させたいです。
川村卓也
1986年岩手県生まれ。19歳で日本代表に選出され、2005年にアジア杯’06年にW杯出場の実績を持つ。B1昇格請負人として今季加入。

※ゲーテ2022年2月号の記事を掲載しております。掲載内容は誌面発行当時のものとなります。