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2021.01.26

坂路を駆け上がるゲーテ号。それを見つめる日本競馬界の偉人

2020年秋。筆者・サントス小林とGOETHE編集部は、武豊騎手と馬主・松島正昭氏による凱旋門賞壮行会の席に偶然同席した。その際に、文豪ゲーテの人生訓と、その名を冠した雑誌のコンセプトに共感した松島オーナーが、ディープインパクト産駒(牡馬)の馬名を「ゲーテ」号とその場で命名!
雑誌と同じ名前の競走馬をGOETHE取材班が追いかける連載第3回では、名門牧場「社台ファーム」で坂路調教に励むゲーテ号、そして、社台ファームの吉田照哉社長が登場する。連載第2回『育成に励む社台ファームは馬400頭が暮らす「学校」だった』

社台ファームで坂路調教を行うゲーテ号

日本競馬界の偉人・吉田照哉氏

ゲーテ号(プラスヴァンドーム2019)に会いに、社台ファームを訪れた筆者とGOETHE編集部員。筆者の元にも「デビュー前から追っかけるなんて面白いね」「専門誌じゃない目線でゲーテらしくリポートしてね、楽しみにしてます」といった声が届き、反響の大きさにプレッシャーも感じていた。そんな心持ちで臨んだ取材の旅路だったが、その重圧に拍車をかける出来事が取材日当日に降りかかってきた!

場内を案内してくれるゲーテ号の担当者・長浜卓也氏が「今日、ウチの社長もいますから」と一言。その瞬間、筆者は心の中で「吉田照哉さんがいるの? 聞いてないよ……」とつぶやいていた。

競馬ファンはご存知だと思うが、吉田照哉氏とは、長らく日本競馬界を牽引する社台グループ、吉田一族の長男である。競馬界に疎い筆者ですら、吉田三兄弟のお名前と、そのお父様(故・吉田善哉氏)の功績によって近代競馬が発展してきた事ぐらいは知っている。偉大なる種牡馬・サンデーサイレンス、そして、ゲーテ号のお父さん・ディープインパクトも、社台グループなくして存在していないのだ。

コロナ禍における競馬界

長浜氏の案内により、ゲーテ号の坂路調教をこの目で見て、撮影するために小さな建屋に入った。

長浜氏:「照哉さん、雑誌ゲーテの取材です。松島さんの馬の……」
筆者:「あっ……。初めまして!」

おもむろに名刺交換をするも、緊張が止まらない。何せ、心算がなかったのだから。続けて担当編集者も名刺交換をする。

照哉氏:「(雑誌)ゲーテって、昔からあるよね?」
編集部:「まだ15年ぐらいの雑誌なんですが……」
照哉氏:「そっか」

長浜氏がすかさずフォローを入れてくれた。

長浜:「競馬専門誌じゃない取材というのは、面白いですよね」

社台ファーム代表の吉田照哉氏

会話が続かない……。競馬のことをよく知らない素人集団なのだから。まるで、経団連会長の前に急遽、居合わせたスポーツ記者なる気分だった(汗)

照哉氏:「でも、凄いよね。(コロナ禍という状況下で)ホッカイドウ競馬も(収益が)500億超えちゃうんだもん。馬も今年は売れないかな? って思ってたら、(高額で)売れちゃうし」
筆者:「ちょうどクラシックシーズンが始まった時にコロナ禍が訪れましたが、その時に唯一の娯楽が競馬開催な感じもありましたよね。開催を止めないというか」
照哉氏:「この前も〇〇(有名な馬主)さんと食事したけど、グループ内で〇〇(業種)はダメだけど、〇〇は売れに売れてて、会社としては黒字転換するかも? って言ってたしなぁ。分かんないもんだよね。ホントに」

競走馬を購入するオーナーがいて初めて開催することができるというのは、日本のみならず、世界の競馬界の共通事項。所有馬主がいなくなれば、その馬券を買う人も成立しないし、胴元であるJRAも成立しない。

コロナ禍で半年以上も無観客開催を続けたJRAだが、夏競馬を終えた時点で前年比1.0%増の売上(約2兆円)を記録し、改めてファンに愛されていることを証明した。照哉氏が語る「ホッカイドウ競馬が500億円を超えた」と言うのも、バブル期で競馬ブームを迎えていた1990年代初頭の記録を塗り替えての新記録であり、それは競馬界全体のホットニュースだった。

照哉氏:「何が起こるか分からないけど、不思議なもんだよね。ありがたいことだね、ホントに」
長浜氏:「次、そろそろゲーテ君が上がって(走って)きますよ。2馬で併せてますけど、黒い服の方がそうですから」

向かって左側を走る馬がゲーテ号。

馬の息遣いを間近で感じた! 「ハァ、ハァ、ハァ」と、一生懸命に、坂道を駆け上がってくる。タカタン、タカタンという足の音は遠くからも聞こえていたが、真横を過ぎる時の息遣いに鳥肌が立った。

我々がいる建屋には、照哉社長の他に、場長・東礼治郎氏、調教統括主任・斎藤孝氏が同席し、双眼鏡でその様子に見入っている。
なるほど……。ここ(この建屋)が調教、育成のヘッドオフィスなんだな。その内部にはPCが並べられ、馬に仕込んだICチップから送られてくるラップライムなど、全ての情報がモニターに映し出される。筆者の隣にいた斎藤氏に、素朴な質問をぶつけた。

筆者:「僕よく分からないんですが、このタイムはどうなんですか?」
斎藤氏:「いいと思いますよ! ここまで順調にきてますし」
筆者:「この坂って傾斜角? って言うんですか……。結構なモンなんですか?」
斎藤氏:「3.5%の勾配ですが、トレセンと同じですね」
筆者:「3.5%よりもっと勾配を上げれば、もっと鍛えられる? ってことですか?」
斎藤氏「……(笑)。難しい質問ですね」
筆者:「スミマセン、素人なモノで……」
斎藤氏:「あまり勾配がきついと、後ろばっかりを鍛えることになっちゃいますし、例えば、欧州では日本に近い勾配で追いますけど、米国は主流じゃないですし」
筆者:「へ~っ、そうなんですね」

坂路通過後、すぐにモニターに反映されるラップタイム。下から3番目の「プラスヴァンドームの19」がゲーテ号。

深入りしても仕方ない。競馬専門誌ではないし、とにかくトレーニングセンターと同じ環境で、すでにゲーテ号が「ガンバッテいる!」ということを知れただけで。

ウッドチップって何だ?

ゲーテ号の坂路を見届け、長浜氏から「次は周回をキャンター(駈歩)で走りますから」と言われるがまま、移動した。

筆者:「さっきから気になっていたんですが、馬が走っている馬場って、フカフカなんですね……」
長浜氏:「ウッドチップです。深さは15cmぐらいありますね」
筆者:「15cmかぁ。結構深いなぁ。あの……馬にとったら15cmのウッドチップを走るのって、負荷をかけるってことですか? ケガをしないためですか?」
長浜氏:「保護です。例えば人間と同じですよ。マラソンランナーが普段から競技と同じ足場で練習しないでしょ?ケガしちゃったら、元も子もないですから」
筆者:「芝の上を走るっていうのも無いんですか?」
長浜氏:「無いですね」

馬が走る馬場は、ウッドチップ。

深さは15cmほどあり、フカフカだ。

また1つ勉強になった。普段、レースで芝やダートの上を走っているから、てっきり芝の上を走ったり、砂(ダート)の上を走ったり、そんな日常を過ごしているんだろうな? と思っていたが、違った。

偶然なんかじゃなかった照哉氏の登場

乗用カートで敷地内を移動している時だった。先ほどまでいた坂路の建屋の下で、照哉社長がアプローチ練習をしていた(笑)。

筆者は悟った……。長浜氏から「今日、ウチの社長もいますから」と、唐突に言われたが、事前にインタビュー取材の依頼はしておらず、取材班一同、偶然だけどラッキー! ぐらいに思っていたのだが。

思い出しながら考えた。競馬専門誌ではない雑誌GOETHEを知っていた? 気を遣って頂いたんだろう。事前に長浜氏から「松島オーナーの馬で、〇月〇日取材が、ゲーテという雑誌で……」と照哉さんに伝えてくれていたに違いなかった。

そう言えば長浜氏との会話の中で「照哉さん写真使用OK何ですか?」と聞いた時、「まっ専門誌じゃダメですが(笑)」と冗談か本当か分からない会話もあり、最後に、掲載確認のために、照哉社長の写真カットのデモを見せたとき、「いいですね!」と快諾してもらった流れ……。私は吉田照哉氏の、社台ファームでの「素」の写真を、近年見た記憶がない。

ゲーテ号の坂路調教が終わり、取材班が建屋を後にしたら、照哉さんも部屋を出てゴルフのアプローチの練習をする。(広大な私有地の中で、馬の邪魔にならない芝生は沢山ある。自分の家なんだし)そりゃそうだ。社長自らが、毎日、全ての馬の調教状況をチェックするなんて……。場長、調教統括がしっかりと見届けているのだから。

その真意の定かは不明だが、仮に偶然にたまたまいらっしゃったとしても、照哉社長なりの気遣いと配慮だったと、そう「信じて」おくことにしよう! 松島オーナー発案のゲーテ号という媒体コラボを気にかけ、牧場責任者として顔を出して頂いたのだろう……。

ゲーテ号を、これからもよろしくお願いします! ゲーテ号は、こうして皆様に陰ながら、支えられ、無事に生活をしています!

<次号>
ゲーテ号、毎日のスケジュールとは?

連載第2回『育成に励む社台ファームは馬400頭が暮らす「学校」だった』

Santos Kobayashi
1972年生まれ。アスリートメディアクリエイション代表。大学卒業後、ゴルフ雑誌『ALBA』の編集記者になり『GOLF TODAY』を経て独立。その後、スポーツジャーナリストとして活動し、ゴルフ系週刊誌、月刊誌、スポーツ新聞などに連載・書籍の執筆活動をしながら、映像メディアは、TV朝日の全米OP、全英OPなど海外中継メインに携わる。現在は、スポーツ案件のスタートアッププロデューサー・プランナーをメイン活動に、PXG(JMC Golf)の日本地区の立ち上げ、MUQUゴルフのブランディングプランナーを歴任。

TEXT=サントス小林

PHOTOGRAPH=池田直俊

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