美術館でもなく、ギャラリーでもない日本初の現代アートのコレクターズミュージアム。東京・天王洲に新たにオープンした「WHAT」で西野七瀬が、アートの魅力を再発見。スケッチブックに色鉛筆を走らせながら最高の笑顔を見せてくれた。このほか、アートの世界で働く仕事人たちを徹底取材した大特集「アートのお仕事」掲載の最新号のご購入はこちら!
「アートって、もっと自由に楽しんでもいいのかも」
奈良美智の絵画に見入る西野七瀬さんの後ろ姿は、サルバドール・ダリの若き日の名作『窓辺の少女』のようだった。
ダリの妹、アナ・マリアをモデルに描いたといわれるこの作品は、その窓枠を額縁に見立て、風景と絵画そのものが二重の美を表現しているといわれる。西野さんはアナ・マリアよりもずっとスレンダーで可憐な印象。だが、彼女の背中は、『窓辺の少女』と同じく、額縁の向こう側に思いを馳せているように見えた。
「普段、美術館に行くことはあまりないんです。少し敷居が高いような気がして……」
そんな彼女がこの日、豊かで静かな時間を過ごしたのは、東京・天王洲に12月にオープンしたばかりの現代アートのコレクターズミュージアム「WHAT」。
館内には、奈良美智以外にも、会田 誠や毛利悠子など、錚々(そうそう)たるアーティストの作品を約70点展示。しかしここは、いわゆる美術館とは、成り立ちが異なる。母体となっているのは、寺田倉庫。展示されているのは、寺田倉庫の美術品保管サービスを利用しているコレクターが所有する作品だ。
「寺田倉庫では、1970年代から美術作品の保管を行っています。お預かりしている間も、多くの方にその素晴らしい作品の魅力を発信する方法はないものかとコレクターの方々にご相談し、常設のコレクターズミュージアムを開館することになりました。敢えて美術館的なキュレーションを行わず、コレクターの視点を感じる、これまでとはちがうアートの楽しみ方を提案できればと思っています」(寺田倉庫「WHAT」担当者)
美術館のような肩肘張った雰囲気はなく、ギャラリーのような入りづらさもない。アートを身近に感じることができる「WHAT」の空気感は“アートビギナー”の西野さんにも心地よく感じられたようだ。
「奈良さんの絵は教科書で見たことはあったのですが、絵の具の筆跡などキャンバスの細かいところまで見ると、より奥行きや厚みを感じます。普通なら見ることができない個人コレクションを見ることができるというのも楽しいですね」
ひとつひとつの作品をじっと眺めていた西野さんが、ふとひとり言のようにつぶやいた。
「久しぶりに絵を描きたいな」
物心ついた時から絵を描くのが好きだった。折込みチラシの裏に、思いのまま何十枚もの絵を描いていたという。
「描いた絵をほめられると、嬉しくなってまた描きたくなる。お父さんがいつも使う引きだしに自分の絵を仕こんでおいて、それを開ける瞬間を隠れて見ているのが好きでした(笑)」
「WHAT」でアートに触れたあとは、隣接の伝統画材ラボ「PIGMENT TOKYO」で3000色以上の顔料に目を輝かせ、さらに近所にできたばかりのアートカフェ「WHAT CAFE」でブレイクタイム。スケッチブックと色鉛筆を手わたすと、楽しそうに絵を描き始めた。
「時間ができたら、水彩か油彩をやりたいですね。いつか、発表できるような作品を描けるようになれたらいいな。アートって、もっと自由に楽しんでいいのかなと思えるようになりました」
2018年に乃木坂46を卒業。女優として着実にステップをあがってきた。少女のようにも見えるが、中身は26歳の大人の女性だ。
「ここ数年、毎年『今年が一番楽しかった』と思えているんです。来年も再来年もその先も、毎年そういうふうに思える時間を過ごしていけたらいいなと思っています」
アートに触れ、また少し世界が広がっただろうか。彼女が描く未来図は、きっと明るい。
WHAT
住所:東京都品川区東品川2-6-10
時間:11:00~19:00(最終入館18:00)
休業日:月曜(休日の場合、翌火曜休館)
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