幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。現在は、新型コロナウイルスの影響でシーズンの開幕が不透明となっているなか、アメリカで準備を整えている。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
「この人にこれを言うとこういうことを書くんだ」
2013年5月。東京ドームで長嶋茂雄巨人終身名誉監督と松井秀喜氏の国民栄誉賞授与式が行われる前後の日に、私は大谷を初めて取材した。
「大谷選手の二刀流を支持している長嶋茂雄さんが国民栄誉賞を受賞された。大谷選手も将来的にそういった選手になりたいと思うか?」と質問すると、大谷の返答は「特に今はないです」という素っ気ないものだった。取材慣れした今では見せないような困り顔を浮かべていて、申し訳ないことをしたと反省したことを鮮明に覚えている。
その後、大谷はすぐにメディア対応に慣れていったという印象がある。プロ2、3年目のオフだったか、大谷対記者2人という今では考えられないほど少人数の囲み取材があった時のことだ。「自身の記事を見る?」と質問を投げかけると、大谷は「Yahoo!で見ています。どの記者の方がどんな記事を書いているかは見ています。この人にこれを言うとこういうことを書くんだって」とイタズラっぽい笑みを浮かべていた。自身の記事には興味がないように見えていたので少し驚いた。
別の日には「自分の良いことばかり書いてある記事が良いって意味じゃないですよ」とも話していた。記者の仕事も"プロ"として扱われていることに、改めて身が引き締まったことを覚えている。
大谷は聞かれた質問以外のことは答えない。目標など具体的数字に関しても、極力答えないようにしている印象を受ける。一番は発言の影響力を考えてのことだろうが、「打てた理由」「抑えられた理由」をそう簡単にメディアに論じてほしくはないのだろう。答えは一つではない。それが野球というスポーツへの敬意だと解釈している。
2020年。世界的なコロナ禍の影響で、二刀流復活を目指すシーズンはまだ始まりが見えない。
大谷は今、何を思うのか。全てが落ち着き、次にメディアの前に姿を現した時には、同じ"プロ"としての意識を持ち、大谷の言葉を伝える責任があると感じている。