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2018.02.26

安藤忠雄インタビュー 好奇心を持て。学び続けよ。 そうして、知的体力を武器にせよ。(後編)

建築家の安藤忠雄さんより、次代を背負って立つ日本人へ向けて、愛情溢れる叱咤激励をいただいた。これを読み、人生を切り拓く覚悟を定めたい。

安藤忠雄

闘争心を燃やして戦いに勝って、自分なりの考え方や生き方を貫く

知的体力を増強していくのに必要なのは闘争心です。何にでも果敢に挑んで、おもしろいことを探し出してやろうという姿勢が大切です。いくつになっても楽しそうに、元気に生きている人は、必ず闘争心を内側に燃え上がらせていて、知的体力もしっかりしているものです。

そんな生き方をしていると、反発を食らうんじゃないかと心配になるかもしれません。たしかに出る杭は打たれます。それが社会というもの。だったら、打たれてもへこたれない杭になればいい。

闘争心を燃やして戦いに勝って、自分なりの考え方や生き方を貫く。そうしたら人生、ぐっとおもしろくなります。

私はいつも、そのあたりを意識して生きてきました。私の場合は大学に行っていないので、学歴がない。ただ体力はあるし好奇心もある、闘争心はあり余っている。そこで、知的体力が抜けているというハンディキャップを補うために、常に人より勉強することを自身に課してきた。

考えてみれば、大半の人は何らかのハンディキャップがあるものでしょう。東京大学を出て一流企業に入ってエリートコースを歩む人なんてめったにいないんですから。自分のハンディキャップを克服するために、やるべきことを自分の頭を使って考えていかないといけません。

そうやって、自分にしかできないことをいつも探し出していく。私は昨年、国立新美術館で「挑戦」と名付けた展覧会を開きました。せっかくやるのなら、何か自分にしかできないおもしろいことをしなければいけない。

そう考えて、美術館の庭に、1/1スケールで《光の教会》を建ててしまうことにしました。建築はその空間を体験してもらわなければ本質を理解することはできないと、私は常々言ってきました。ならば展覧会でも建築を体験できる機会を盛り込まないといけないと考えたのです。

会期中はギャラリートークもたくさん行いました。その数、28回。ふつうそんなにする人はいません。でもこれは、生きている人間が展覧会をやっているからこそできる。他人がやらないこと、自分にしかできないことを考えたら、身体的体力と知的体力が続くかぎり直接話す機会をつくろうという気になりました。

いま、私は大阪で児童向けの図書館《こども本の森 中之島》をつくろうとしています。地元の大阪でも、もっと子どもに投資していかねばと思ってのことです。

子ども図書館

大阪市の中之島公園内に児童向けの図書館「こども本の森 中之島」(3階建て・延べ床面積約1000㎡)を2019年の夏休みまでに完成させる予定。建築費や運営費は安藤さんが、個人や企業からの資金協力を募りながら負担し、市に寄付する。

運営資金調達のために大阪の財界から寄付を募っていまして、私が直接電話してお願いをします。が、一度連絡しただけで賛同してもらえることは少ないんです。何回も趣旨を説明して、やっと支援していただけるケースがほとんどです。

次の時代を担う子どもたちが判断力を持った自立した個人として育ってくれないと、社会は立ち行かなくなります。ならば子どもにこそ投資しなければいけないはずです。でも、そういう判断を即座にできる人は少ない。

知的体力は若い人だけでなく、いい大人でもどんな地位にある人でも、磨き続けないといけないものだと痛感します。

一所懸命やっていると、図書館に寄贈したいと、子どもの本を大量に提供してくださる方も出てきます。先日は、状態も内容もいい本を600冊ほど出してくださった個人の方がいました。うれしいことです。

現在パリで進めている建築もあって、《ブルス・ドゥ・コメルス》というものです。かつての穀物取引所を保存・改修するプロジェクトで、古い建物の外観は残し、内部に巨大なコンクリートの円筒を挿入し、現代アートの美術館として再生します。

「あるものを生かしてないものをつくる」ということに、私は建築を通して幾度も挑戦してきました。他の人がやらないこと、自分にしかできないことをやろうと模索する中で編み出した方法のひとつです。《ブルス・ドゥ・コメルス》もその一環ですね。順調に進捗していて、来年の春にはオープンの予定です。

安藤忠雄

知的体力を鍛え続けて、人生のすべてを青春として過ごす

当然ですが、私は建築をつくるのにまだまだ忙しい。90歳くらいまでは今と同じ
ように仕事をしていくつもりです。

「なんでそんなに元気なんですか?」とはよく聞かれます。大きな病気を患って大手術をして、臓器を5つも全摘してしまっていますから、気をつけないといけない面は多々ありますよ。そのわりには元気といえば元気に過ごしていますが、これはやっぱり人生最後までおもしろく生きてやろう、ずっと青春でいこうと思っているからでしょう。

人生のすべてを青春でいこう。

それを守り続けさえすれば、元気に生きられます。じゃあ青春とはどういうものなのか。何も若いころの一時期だけを指すわけじゃありません。

実際の年齢など関係なく、遊び心を持ちながらおもしろいことに命を賭けて、夢を持って生きる。それができているうちは青春です。

何事にも好奇心を持って常に学び、身体的体力と知的体力を鍛え続けて、人生のすべてを青春として過ごす。そういう生き方ができれば、人生は90年でも100年あっても、まだまだ足りないくらいです。

Tadao Ando
1941年生まれ。独学で建築を学び、’69年に安藤忠雄建築研究所を設立。世界的建築家として活躍する。現在、進行中のプロジェクトは50を超える。プリツカー賞、文化勲章をはじめ受賞歴多数。桃・柿育英会 東日本大震災遺児育英資金」実行委員長。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。97年より東京大学教授、03年より名誉教授。2017年、国立新美術館で開催された個展には30万人を動員し、翌年パリのポンピドゥーセンターでも開催された。

TEXT=山内宏泰

PHOTOGRAPH=鞍留清隆、安藤忠雄建築研究所

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