「マラソンランナーの山中です」。最近、講演の冒頭では、こんな自己紹介でウケを狙うことがあります。とはいえ、研究者でマラソンランナー、というくらいのギャップでは、プロボクサーを経て、世界的に有名な建築家になられた安藤忠雄さんには敵いません。
2014年、私が登壇させて頂いた大阪の病院での講演会で、安藤さんがモデレーターをしてくださったことがありました。その日というのが、実は安藤さんが、がんの治療のために膵臓・脾臓を全摘出する大手術の前日だったというのですから、本当に驚きです。そんなエネルギーにあふれる安藤さんや奥様の由美子さんとお付き合いさせて頂くなかで、多くを学ばせて頂いています。世界を相手に戦いながら、あくまで拠点は地元にこだわる大阪人──そんな共通点も感じています。
安藤忠雄さんの存在が、背中を強く押す
2015年3月には、安藤さんの呼びかけで、iPS細胞研究への継続支援を目的とした「山中伸弥さんを支える会」という会を作ってくださいました。驚いたのは、「安藤さんが言うなら」と呼びかけに応えてくださった方々の数。なんと、200を超える企業や個人の方が集まりました。文字通り「百人力」という言葉でも足りない安藤さんや会の皆様に、心から感謝しています。
時々、「安藤さんが失ってしまわれた臓器を、もし再生医療で取り戻して差し上げられるならば、どんなに素晴らしいだろう」と考えることがあります。
安藤さんの存在は、私がiPS細胞による再生医療を1日でも早く、と強く願い、行動する理由の1つです。
山中伸弥の今月のひと言。
5月22日に第三研究棟の竣工式を行いました。当日は、晴天に恵まれ、素晴らしい式典となりました。新しい研究棟を備えたiPS細胞研究所(CiRA)に更なる希望を感じておられる方々がたくさんいらっしゃると思います。今後もCiRAメンバーと力を合わせて、新たな治療法を提供できるよう、研究に邁進していきます。
また、読者の方の声も聞いてみたいと思っていますので、この連載に関してご感想やご希望がありましたら、ips-kikin@cira.kyoto-u.ac.jp にメールでお送りください。
*本記事の内容は17年5月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)