人の手が加わる以上、盆栽の価値は作家のセンスに依るところが少なくない。ここでは現代アート的な価値を持つ盆栽作家ふたりを紹介する。
盆栽作家が手がけるアートな名樹
盆栽の魅力を改めてひも解くと、「自然美」と「人工美」の調和を見て取ることができる。鉢植えが植物自体を鑑賞するものなのに対し、盆栽は植物の姿を借りて自然や風景そのものを感じるもの。ひとつの植物をいかに美しく魅せられるかということを考え、創意工夫をしながら手入れを行い、作品を作り上げるのが盆栽作家だ。
特に芸術的感覚に優れた盆栽作家として、注目されるのが、苔聖園(たいしょうえん)の漆畑大雅氏と、勝樹園の井浦貴史氏である。
小さな盆栽で定評のある漆畑信市氏を父に持つ漆畑氏は、盆栽界の巨匠・木村正彦氏のもとで修行をし、大物だけではなく創作、改作、さらには豆盆栽まで手がけるオールラウンダー。代表作品に、日本盆栽作風展にて内閣総理大臣賞を受賞した赤松の「轟」などがある。
同じく内閣総理大臣賞の受賞歴をもつ井浦氏も正真正銘のトップランナー。「同じものを一寸の狂いなく作る人が職人。一方、僕らはあくまで作り手なんです」と語るように、盆栽をアートとして捉え、バランスや美しさを追求し続けている。
百聞は一見にしかず。このダイナミックな作品に息を呑まずにはいられない。
漆畑大雅/空に昇る竜のごとく、猛々しくも美しい芸術的なシルエット
日本盆栽協会の『貴重盆栽登録樹集』に掲載されている盆栽1226点の内、唯一の小品盆栽。樹高(鉢上から葉先まで)24㎝、左右(葉先からジンまで)33㎝というサイズに、自然のダイナミズムを凝縮したアートな逸品。
井浦貴史/捻転した幹模様に神の姿が重なり、圧巻の貫禄を放つ2鉢
約30年前に父・井浦弘勝氏が入手した推定樹齢800年の天然の原木を盆栽に仕立てた本作は、井浦氏の師である川辺武夫氏が最初に手がけた樹。「風神」とともに数億円の価値をもつと言われる真柏名樹。樹高は93㎝。
趣溢れる幹芸に、神々しいまでの力強さが加わった「風神」も、先代より守り継がれてきたもの。特殊な機械での吹き上げを行い、百年分の風雪をシャリに与えて、芸術性を出した。樹高は88㎝。