お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営し、新刊『未来のお金の稼ぎ方』を出版した起業家、児玉隆洋氏が「未来のお金」についてさまざまな分野の賢人たちに問う対談シリーズ。対話から見える、お金、経営、事業で成長するために持つべき視点とは──。起業家仲間の3人が語り合う。後編。前編はこちら。
【マネー鼎談】プログリット岡田祥吾×ポジウィル金井芽衣×ABCash児玉隆洋「教育ビジネスはいかに個に寄り添えるか」
今年9月に東証グロースへの上場を果たした英語教育ベンチャー、プログリットの岡田祥吾氏。キャリアコンサルティングベンチャーとして急成長を遂げているポジウィルの金井芽衣氏。そして金融教育ベンチャー、ABCashの児玉隆洋氏は、ビジネス形態や創業年も近しいことから仲が良く、よく集まるという。次の時代を担う若手経営者たちは今、何を見つめ、どう考えているのか。編集部が投げかけるテーマについて、ざっくばらんに語ってもらった。
──教育ビジネスで、成長するには?
児玉 ABCashは金融教育だけど、創業当初から根っこにしているのは「寄り添うこと」。昭和と違って、今はキャリアパスやライフプランが多様化しているから、画一的に教えるというのは無理がある。だから、ビジネス的には非効率だけど、マンツーマンで一人ひとりに寄り添う。あなたが主人公なんですよ、というスタンスは大事にしています。
岡田 プログリットも上から教えるというのではなく、伴走する。昔は英会話を習うならスクールに行かなきゃいけなかったけど、今は月5000円も払えばオンラインでネイティブスピーカーと英会話レッスンが受けられるし、YouTubeにも無料動画はいくらでもある。でも逆に課題が2つあって、1つは世の中に手段がありすぎて、どれがいいのか、どれを選んだらいいのかわからないこと。もう1つはあまりにも簡単にできてしまうがゆえに続かない。
金井 簡単にできると簡単にやめちゃうよね。
岡田 そう。だから、僕らが重きを置いているのは、その2つを解決すること。あなたに合う方法はどれかをコンサルし、そしてすぐできることを継続できる仕組みが大事で、ここを伴走するのがモットー。
金井 ポジウィルはキャリアカウンセリングだけれど、やっぱり教えるのではなく、寄り添って伴走する点は同じ。仮に、その人に合う仕事に気づいても教えないように指導してる。
児玉 え、そうなんですね!?
金井 答えは本人の中にあるし、本人がそこに気づくことが大事だから。問いを通じて、一緒に答えを探しながら伴走するのが私たちの価値。
児玉 たしかにキャリアは特に伴走が必要かもしれないね。今、リスキリングがブームですけど、どのジャンルであれ、みんな「私のための」「私向きの」を求めている。金融教育も仕事や収入、ライフスタイルがみんな違うから、教科書通りの内容では参考にならない。個に寄り添えるビジネスじゃないと難しいと思う。
──いい人材を集めるには?
児玉 うちは完全にビジョン採用。ビジョンに共感してくれているかどうかなので、ウォンテッドリーやSNSで常に会社のビジョンを発信しているし、面接もビジョンファーストな人かどうかを見ています。給料や条件で来る人は給料や条件でやめてしまうので。あとは素直でいい人は絶対的な採用基準。
岡田 すごく被ります。あと大事にしているのは直感かな。スキルもあるし経験もある。でもなんとなく、握手する手をパッと出せない。そういうときは落とします。以前、ここで採用したら業績が上がるというのが見えていたとき、人数を増やしたくて、ちょっと迷ったけど採用して失敗したことがあって。株の損切りルールじゃないですけど、ちょっとでも迷ったら落とす。そこは徹底してますね。
金井 私はやりきった経験があるかどうかを重視してる。うちの会社はスポーツをやってた人が多いんだけど、頑張ってやりきった人って、仕事でも頑張れる。いくら経歴がすごくても、最後までやりぬくガッツがないと、「こんなに頑張ってるのに」で終わっちゃうから。
児玉 それはたしかにあるかも。
金井 でもいい人材を集めるためにいちばん大事なのは、社長が頑張ることだと思ってる。これだけSNSもあって、媒体もあるなかで、人が集まらないのは社長が人事担当に任せきりで、やれることをやっていないから。別にその会社に興味がなくても、代表に会えるなら面接にくる人っていると思うんです。実際、最近も何人か、すごく素敵な人がジョインしてくれました。
未来を描き、旗を立て、責任を持って決断する
──社長にとって大切な存在とは?
岡田 僕はCOOの山碕峻太郎ですね。起業する前から一緒にやっているんですけど、常に支えてくれています。採用も最終面接は僕か山碕で担当するんですが、山碕が「この人迷ってるんだけど」と聞いてきたら、「お前が迷うならNOだよ」と。そのぐらい信頼しています。
金井 山碕さんはリクルートキャリア時代の同期なので、私は実は仲良くて。祥吾くんがいないところでも、彼はいつも「社長がいちばん大変なんだ。一人で背負ってるんだ。だから、そこを支えるのが俺の仕事なんだ」って言ってるよ。
児玉 そこまで言ってくれるナンバー2がいるのは、めちゃくちゃ心強いよね。
金井 児玉くんのところの辻(侑吾)さんだってすごい。児玉くんとは同期なのにいつも敬語で、リスペクトしているのが伝わってくる。
児玉 いや本当に、ABCashが崩壊せずにここまでやってこられたのは、辻のおかげ。そういう意味でいうと、組織がうまくいくかどうかは、ナンバー2の力にかかっているのかもしれない。
岡田 それわかる。
金井 うちのナンバー2の斉藤(健太)は、辻さんに触発されて、「自分も見習わなくちゃ」って行動が変わりました。
児玉 それは嬉しい。辻に伝えておきます(笑)。
──では最後に、社長の仕事とは?
金井 未来をつくること。私が未来を描いて、メンバーを巻き込んでいくことだと思ってます。
岡田 僕は責任を持って、決断していくこと。失敗しても、社長は責任を取れる。だから、決断することが自分の仕事だと思います。
児玉 旗を立てること。旗に対してどの航路を取るかはみんなで決めていけばいいけれど、旗を立てられるのはやっぱり社長しかいませんから。
■前編はこちら
SHOGO OKADA
2014年、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。製造業、ヘルスケア業界、金融業界など幅広い業界の企業に向けてコンサルティングサービスを提供。'16年、現取締役副社長の山碕峻太郎と共に英語学習事業サービスを運営するプログリットを創業する。'21年「Forbes 30 Under 30 Asia 2021に選出。
MEI KANAI
1990年生まれ。短大で保育士・幼稚園教諭の免許を取得した後、法政大学キャリアデザイン学部に編入学。'13年に卒業後、リクルートキャリアに入社。'17年、国家資格キャリアコンサルタントに登録、ポジウィルを設立し、代表取締役に就任。キャリアに特化したパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER」を運営する。
TAKAHIRO KODAMA
ABCash Technologies代表取締役社長。2007年、サイバーエージェントに新卒入社し、AmebaBlog事業部長、AbemaTV局長などを歴任。'18年、日本の金融教育の遅れ・お金の情報の非対称性に大きな課題を感じ、ABCash Technologiesを設立。累計受講者数2万人を超える、お金のトレーニングスタジオ「ABCash」を運営する。趣味はサーフィン。