35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。英語力0.5レッスン「人のEnglishを笑うな」第143回!
「マジ、ヤバいって!」にはいろんな言い方がある!
英語の勉強をサボってずいぶんたってしまい、せめてもとダラダラする時間に見るYouTubeを、英語のチャンネルにするようにしています。けれどリスニング能力も単語力も落ちているので、あまり難しいチャンネルは見られず、最近は「日本を英語で紹介する外国人のチャンネル」を主に見ています。
紹介しているのは日本の文化や食べ物なので、例えリスニングできなくてもなんのことを言っているかはわかります。ダラダラする時間に見ていますので、わからなくてもいちいち動画を止めて字幕を確認することはしていません。なんとなく「日本の食べ物にこの人はこういう反応するのかぁ」くらいのことがわかれば動画自体は楽しめるし、一応英語を聞いてはいるし、という、勉強としてはまったく意味のない方法で動画を見ています。
ある時、虎ノ門にあるラグジュアリーホテル「アンダーズ東京」最高級の部屋「アンダーズ スカイスイート」を紹介するイギリス人YouTuberの動画を見ていて、そこでしょっちゅう連呼される言葉があることに気がつきました。
This is insane!
“insane(インセイン)”は「精神の病」という意味で、「非常識」とか「馬鹿げている」というような、基本的にネガティブな言葉です。しかしそのイギリス人の方は、スイートルームからの眺めを見ては
This view is insane.
と言い、広すぎる玄関を見て
Here is so ridiculous and it’s insane!
と言うのです。
このYouTuberの他の動画を見ても、驚いたり感動したりするとすぐに“insane!”と叫んでいます。
最初は、なぜこの人は「非常識だ!」と叫び続けているのか、意味がわかりませんでした。けれどあまりに連呼するので本来の意味の「メンタルイルネス!」「非常識!」と叫んでいるとは文脈的に思えず、つまりこの感じ日本語で言う「ヤバイ!!」なのだと理解しました。
「ヤバイ」だって本来、ネガティブな意味のスラングでしたが、「あの人ヤバイかっこいい」「あの映画はヤバイ」など、ポジティブな意味でも使われるようになりました。おそらく“insane”もそういうことなのでしょう。
虎ノ門ヒルズの49・50階にあるお部屋の大きな窓から、目の高さに見える東京タワー、東京の街を見下ろすビューはまさに圧巻で、
This view is insane.
(この眺めヤバイでしょ)
と実際に見たら言いたくもなるでしょう。
玄関も2つあり、靴とコートを入れておくスペースですでに、ちょっとしたホテルの部屋より広いですから
Here is so ridiculous and it’s insane!
(なにここ、もうおかしい。ヤバい)
と驚いたのもわかります。
“ridiculous”は「馬鹿げている」という意味ですが、あんまりにも驚いた時にポジティブな意味で使うこともスラングではあります。“insane”とのあわせ使いによって「もう、広すぎておかしいでしょ、まじヤバいって」という言い方になっていると思われます。
以前、「病気」や「風邪」という意味の“sick”が「ヤバい」という表現に使われることがあるとご紹介しましたが、この“insane” “ridiculous”も同じ系統の言葉かもしれません。
“sick”“ridiculous”“insane”は 本来の意味があまりよいものでないため、英語力0〜0.5の私が使ってしまうと、もともとめちゃくちゃな英語に、下品な言葉が加わってさらにめちゃくちゃに聞こえてしまうでしょう。使わないようにはしたいですが、その意味を理解しておくといいかもしれません。
在英時は、英語が下手なりに、悪い言葉を使わないよう気を付けていたのですが、一度だけ“ridiculous!”と叫んだことがありました。
「この前、近所のパブにノエル・ギャラガーが来ていてさ、アリエにも見せてあげようと思って! すぐ呼んだんだ!」
通っていた語学学校の近くのパブに、オアシスのノエル・ギャラガーが来ていたそうで、ポーランド人のマイケルが、このパブのすぐ近くに住んでいたロシア人クラスメイトのアリエにすぐメッセージを送ったそうです。
呼ばれたので、彼女はパブまで来たのですが「え? ノエル・ギャラガーって誰?」と言って帰っていったそうです。マイケルは悔しそうに
「アリエ、オアシス知らなかったんだよ〜、もったいない!」と言っていました。
青春時代にオアシスを聞いて過ごしていた私はこの時、生まれて初めて
“That’s ridiculous!”
と叫びました。
マイケルは少し驚いて、「今度、見かけたらMomokoを呼ぶことにするよ」と言っていました。
しかしその後、ノエル・ギャラガーとマイケルが遭遇することはなく、呼ばれることもありませんでした。まぁもしノエルを見かけても、罵られそうなので(数々のインタビュー・ステージで暴言を吐いてきた方です)、声をかけず遠くから見ていただけだと思いますが。
Illustration=Norio