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FASHION

2022.12.31

限りなくクリエイター思考でブランドをPRする、注目のSakas PR・長坂啓太郎とは

数あるファッションPRのなかで、ファッション業界からひときわ注目されるショールームが存在する。それが原宿にショールームを構えるSakas PRだ。「PR活動を通じて、ブランドの未来を創造する」という理念のもと、限りなくクリエイターたちに寄り添うSakas PR代表・長坂啓太郎氏の考えに迫る。連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」番外編。

Sakas PR

ブランドとともに未来を創造する

BED j.w. FORD(ベッドフォード)、KIDILL(キディル)、LAD MUSICIAN(ラッドミュージシャン)など、現在国内外合わせて18ブランドのPRを行うSakas PR。少数精鋭のチームながら、契約を続けるすべてのブランドに対しての情熱は決して揺らぐことはない。

――まずは長坂さんの経歴、PRという仕事を始めたきっかけを教えてください。

大学卒業後はABAHOUSE(アバハウス)で3年半ほど過ごし、その後GalaabenD(ガラアーベント)でショップマネージャーを3年ほどやらせていただきました。GalaabenDは、PRがお店にいたブランドだったので、その方が休みのときにはスタイリストの対応を行っており、それがPRの仕事に興味を持ったきっかけでした。

当時、MIHARA YASUHIROにいる知人に紹介していただいたことをきっかけに、MIHARA YASUHIROに入りました。当時からすでにパリで毎シーズンショーを行なっており、ショーの仕事はそこで学ばせてもらいました。そこで海外の仕事を経験できたことは、とてもありがたいことだったと思っています。

MIHARA YASUHIROは、華やかなショーを行なっている裏側に、浅草に工場を持っているといったかなりプロダクト寄りな面もありました。両方の側面を経験できたことは今に生きています。ショーを発表しているブランドの管理もでき、プロダクト寄りのブランドのことも理解できる。だから僕たちが今、複数のブランドを同時に進行しながらも、ひとつひとつのブランドのフィロソフィーを大切に出来ているのは、その頃の経験がかなり大きいと思います。

kidill

'14年に、デザイナー・末安弘明によって設立されたブランド「KIDILL」。パンクロックを突き詰める、吹っ切れた思考によりつくられる服からは、末安氏の、自身を信じるまっすぐな気持ちが感じられる。

――独立しようと思ったきっかけはなんでしょう。

MIHARA YASUHIROは、僕が入ったときにはすでに立ち上げから15年ぐらい経っていて、当時からパリで発表していたり、すでに形が整っていた。なので、僕の考えがどうこうというより、ブランドのフィロソフィーに合ったPRを形にしていくという印象でした。

もちろんチームの一員として活動していたし、とてもありがたい経験をさせていただいていたんですが、駆け上がっていくストーリーというよりも、すでに確立している信念を大事にしていく域に到達していました。

そんなことを考えていたときに、周りの同世代のブランドが、だんだんと世に知れ渡っていくタイミングが来たんです。それを見て、今から飛び立っていくブランドに携われることはすごく幸せなんだろうなと思いました。そして、若いデザイナーや、まだ出たばかりのブランド、これから海外に出ていくブランド、これから国内外で知名度を伸ばしていくブランドなどと、自分も一緒になってつくりあげていく仕事がしたいという思いが強くなり、独立しようと決心しました。

seven by seven

'14年に、デザイナー・川上淳也によって設立されたブランド「SEVEN BY SEVEN(セブン バイ セブン)」。既存の世の中の流れに属さない彼がつくる服は、「クオリティが高いのは当たり前。作る人や着る人に思いを馳せれば、結果として"意味のあるクオリティ"になる」。と、独自のものづくりを続けている。

――そのような経験を経てつくったSakas PRのこだわりは?

Sakas PRは複数のブランドを取り扱う、いわゆるアタッシュドプレスですが、できる限りインハウスに近い仕事ができるように心がけています。ひとつひとつのブランドに対し、深い理解を持って仕事をする。もちろんそれは大変なことですが、こだわるべきポイントだと思っています。

例えば、各ブランドの"ショーに必要な要素"を、決して同じ内容にしない。もし、3つのブランドが同じシーズンにショーをやるとなれば、必要な要素を、それぞれ書き出し、まとめる。ブランドによってやることが違いますから。明確な違いを見出せるくらい、ブランドごとの現在地や課題として挙げるべき部分を、誰よりも理解しなければいけないと思っています。

できる限りブランドのフィロソフィーやデザイナーのアイデンティティに近づいて仕事がしたいので、頻繁に直接会って相談をし、こまめにLINEでやりとりしています。なるべく近い距離で、デザイナーが表現したいことや発言の真意・事実をしっかり掴むことは、大切にしていることのひとつです。

そうやって、ブランドの足りない部分を補うという仕事のやりかたをしているんですが、それはMIHARA YASUHIRO時代に、インハウスにいたからこそ理解できていることでもあります。あのころの経験と環境に、とても感謝していますね。

そしてやはり、Sakas PRのスタッフとの意識共有にも注力しています。ともに仕事をするすべての方々ともそうなのですが、認識を共有しておきたい。PRとして、ブランドの未来に対しての意識を共有しておくこと、全員が同じ方向を向いておくことが大事だと思うんです。

以前スタッフに、「家族が増えたと思って向き合ってほしい」と言ったことがあるんですが、これは結構真面目な話で、PRの仕事って、それに近い意識が必要だと思うんですよね。同時に、そのこだわりがSakas PRの強みだと思っています。

1999年にデザイナー・熊谷和幸によって設立された、2000年代東京を代表するブランド「ATTACHMENT(アタッチメント)」(左)、'19年に榎本光希氏によって設立されたブランド「VEIN(ヴェイン)」(右)。現在は両ブランドともに榎本氏がデザイナーを務め、'22年7月には、2ブランド合同でランウェイショーが開催された。「静」と「動」の二面性がそれぞれのブランドで表現されている。

――すべてのブランドに、最終目標はありますか。

各ブランドごとに、ビジョンを絶対に共有するようにしています。わかりやすいものだと、「パリでショーをやりたい」とか。そして、「国内でこれぐらい知名度があるブランドになりたい」などの、具体的なベンチマークの話も絶対します。それは常に共有しておかないといけない。半年後、1年後のビジョンを明確に共有できていたら、大きなズレは生じないと思うんです。

また、売り上げや認知度が下がっていくブランドには、絶対に理由があると思っています。くり返しPRとして力を添えられる部分があるとすれば、ブランド側と意識を共有しておくこと。そして、認識の密度や深さが、ブランドの未来の形を左右するとも思っています。それができていれば、基本的に知名度もイメージも下がらないと思うし、その先に売り上げがあると思うんです。まだ独立して若干3年ですが、ブランドにおけるPRの必要性をしっかり理解している。極端に言えば、担当しているブランドを、ポジティブな方向へ進められる自信があります。

'10年に発足した、山岸慎平氏がデザイナーを務めるブランド「BED j.w. FORD」。'19年にはミラノで、'20年にはパリでショーを行うなど、洋服を通じ世界との接点を探り続ける。

――他のPRとの違いとして、ZINE(少部数で発行する自主制作の出版物)による発信が印象的ですが、そのこだわりを教えてください。

ブランドの情報をただ伝えるよりも、やはり紙で、手渡しできるものにしたいというのが一番大きいですね。渡した瞬間や、読んでくれたときの反応をちゃんと見たいんです。僕たちがやっていることの肌感覚のようなものが、しっかりと伝わる形で裾野を広げたい。なにより各ブランドのフィロソフィーを正確に伝えていきたい。ZINEを手に取り読んでもらうことで流されない情報になるし、また読み返してくれるかなと思うんです。また、英訳しているページが半分あるのですが、それは海外に向けて。今その時に必要な要素を、なるべく手に取れる形で発信したいんです。担当するブランドのフィロソフィーやショールームのオリジナリティが伝わるように、制作チームとは細かいところまで詰めています。なによりもブランドの発信が目的なので。

――ZINEの制作を自社で行う理由はなぜでしょうか。

これは当たり前のことだと思うんですが、僕たちが一番ブランドのことを知っていないといけないからですかね。もちろん人に委ねることもありますが、委ねるとしたらやはり僕らと遜色ないぐらい理解をしてくれている方と一緒にやりたい。今があるのは、その熱量が伝わっているからだと思っているので。

アートディレクター、フォトグラファー、スタイリストなど、ともに仕事をする方々とは本当に距離が近く、友人として付き合うほどです。だからこそブランドへの理解が日に日に深くなっていると思います。日常的にブランドの状況を話したりしますし、密なコミュニケーションによって常に思考が共有されているから本筋からズレない。だから、なぜ自分たちでつくるのかと言われると、その方がストレートに伝わるものを生み出せるからですかね。

――新しいショールームについて教えてください。

新しいショールームの名前は「Casas(カーサ)」。ここでは国内外のブランドを取り扱います。海外ブランドを置きたいというより、担当しているブランドが海外に進出していくのを見ている中で、海外のブランドやデザイナーとコミュニケーションを築いていきたいという気持ちが大きくなったんです。

裾野を国外にも広げていくことが、今やらせてもらっているブランドすべてと、僕らのボトムアップに繋がると確信しています。ブランドへのフィードバックにつながることがきっと増えてくると思っていますし、それが次のステップに繋がると思っています。「Casas」がきっかけで海外とのコミュニティができることによって、日本と世界の間で相互関係を築けたら良いなと思うんです。

Casaはスペイン語で“家”という意味の言葉です。家族のように会話をし、繋がりが育まれたらと思い、この名前にしました。「Casas」は1階と地下の2階設計になっており、1階はサロンのような状態で⼤きなソファを配置し、リラックスできる打ち合わせスペースにしています。ブランド、ファッションに関わるすべての方々と、親密にコミュニケーションがとれる空間にしたいですね。通常のショールームのように、ただ服を貸すとか、ただ見てもらう場所ではなく、「ちょっとCasas寄って行こうよ」という、ラフにコミュニケーションがとれる場所にしたいんです。

「ちょっとお酒でも飲みましょうよ」というくらい落ち着ける場所にして、気を抜ける時間、空間をつくることで、お互いに腹を割って話せたりするじゃないですか。そんな時間を共有することが、ともにいいものをつくり出す上で重要だと思うんです。空気を感じてもらえば、何となくわかってもらえる気がするので。

'22年12月から「Casas」に置かれることとなった、'16年に創業したスウェーデンのブランド「Séfr(セファ)」。小さなディティールを見つけ出す、服を通して喜びを感じてもらうことを目的とするなど、固定概念から外れる服づくりをしている。

こちらも12月からPRを担当することとなった、'16年に創業したイタリアのブランド「MAGLIANO(マリアーノ)」。若干27歳のデザイナーがつくる服は、独特なカットソー工程によりミステリアスな雰囲気を醸し出す。「2023 SS COLLECTION」では、市場で取り寄せた生地を使用したシャツなどが取り揃えられている。

Keitaro Nagasaka
1985年静岡県生まれ。ABAHOUSE、GalaabenD、MIHARA YASUHIROを経て、2019年に独立しSakas PRを設立。現在はBED j.w. FORD、KIDILL、LAD MUSICIANなど、国内外18ブランドのPRを行う。

連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」とは……
東京が誇りに思うべき、“今”を生きるデザイナーに迫る本企画。彼らの表現方法やこだわりを深く追求する。コロナ禍という状況をを乗り越え、世界に発信し続けるブランドたちの現在とは。新たなクリエイティブと向き合い続ける、デザイナーの脳内に迫る。

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過去連載記事

COMPOSITION=中里俊介(ゲーテ編集部)

TEXT=荒谷優樹(ゲーテ編集部)

PHOTOGRAPH=西川元基

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