幻想的な島が誘う、大人な世界へようこそ
今回の作品の登場人物は、アメリカの映画監督夫婦。ふたりの憧れの映画監督であるイングマール・ベルイマンが晩年を過ごした、バルト海の小さな島に滞在する話です。
羨ましいなぁ。滝藤家はまだまだ子供たちが小さいですからね。20年後、私が60代になった時に、夫婦でこんな風に過ごせたら最高の人生だなぁと観ていました。太宰治をぼちぼちと読みだして、60代になったら『津軽』を片手に、青森の太宰に縁のある場所を廻るとか、京都で黄金期の映画監督たちの足跡を訪ねてみるとか、考えるとワクワクします。そういう時間をかけた聖地巡礼の楽しさが、この『ベルイマン島にて』には漂っている。
夫トニーを演じるのは、私が俳優を目指すキッカケとなった憧れの男、ティム・ロス。クエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』のMr . オレンジのあのクールな感じ、『パルプ・フィクション』のパンプキンのファニーな感じ、『海の上のピアニスト』、『グリッドロック』たまらないです。若い頃は尖った個性が魅力的でしたが、今やすっかりええ感じのおっちゃんになり、年の離れた妻を終始リードしています。
妻のクリスは自由奔放。夫と約束したベルイマンツアーをすっぽかし、地元の素敵な青年に誘われて、そっちのガイドでちゃっかり島を廻っちゃうような、なんとも可愛らしい女性。浮気とか不倫とかいう安っぽい表現では言い表せないリゾート地あるあるですよ。隙がでてしまうというか、恋人みたいに振る舞うのが許されてしまうみたいな。そういう束の間の触れ合いがいかに楽しく、素敵だったかを夫に報告しても、許されてしまう関係がまた微笑ましく、とっても大人な優しい映画なんです。って、こんなの映画のなかでしかないだろ! ふん!
話は変わりますが、ふたりが着ているお洋服がまた、シンプルながらいかにも上質で、最近、値段は高いけど肌触りのいい肌着に目覚めた滝藤は、そこも食い入るように観ておりました。作品終盤、突如現れる変化もお見逃しなく!
『ベルイマン島にて』
2021/フランス・ベルギー・ドイツ・スウェーデン
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:ヴィッキー・クリープス、ティム・ロスほか
配給:キノフィルムズ
シネスイッチ銀座ほか全国公開中。
スウェーデンを代表する映画監督、イングマール・ベルイマンが晩年暮らしたバルト海のフォーレ島を舞台に、アメリカ人の映画監督夫婦の聖地巡りを幻想的に描いたドラマ。夫は自身も映画監督でもあるティム・ロス。妻は『ファントム・スレッド』のヴィッキー・クリープス。妻の心の移ろいを堪能あれ。
Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。ドラマ『探偵が早すぎる 春のトリック返し祭り』(読売テレビ)、『家電侍』(BS松竹東急)、『私(あたい)のエレガンス』(BSテレ東)に出演中!