ENTERTAINMENT

2022.01.05

刺激が欲しくなったら、「裏社会」を覗く社会派ドラマを── 短期連載「海外ドラマのススメ」Vol.2

アートやヒップホップに造形が深く、一方で経営者へのインタビューなど幅広い活動をするライター川岸徹は人生の「楽しみ上手」。海外ドラマや映画専任のライターではないからこそ、本能に従順に、真に心に響く、人生を潤す海外ドラマをセレクト! 2022年を力強く生きるための刺激をくれる2作品をお届けする。

『ナルコス: メキシコ編』/映像の美しさが際立つマフィア映画

アメリカ麻薬取締局の捜査官エンリケ・“キキ”・カマレナ。正義感が強いがゆえに、苦難の道を歩むことになります。Netflixシリーズ『ナルコス: メキシコ編』シーズン1~3独占配信中。

マフィア映画の金字塔「ゴッドファーザー」が1972年に公開されてから、今年で50年を迎えます。いまだに「PARTⅠとPARTⅡのどちらが好きか」が話題になりますし、生涯最高の1作に挙げる人も少なくありません。言うまでもなく、ゴッドファーザーは今も色褪せない映画史上に燦然と輝く不朽の名作です。

その後もマフィア映画からは名作が続々と生まれています。「スカーフェイス」「アンタッチャブル」「パルプ・フィクション」「インファナル・アフェア」……。マフィア映画は暴力的で血生臭い描写も多いですが、それでも鑑賞者の心を捉えて離しません。家族愛や友情、野心、裏切り、葛藤、哀愁、そして破滅。人間の美しい部分も醜い部分も詰め込んで人間の本質を描き出そうとしているから、長く愛されるのでしょうね。

そんなマフィア映画の伝統は、Netflixのオリジナルドラマに受け継がれています。2021年11月に完結した『ナルコス: メキシコ編』。1980年代から2000年前半にかけてのメキシコ麻薬戦争を題材にした作品です。

1980年代初め、メキシコには小さな麻薬組織が数多く乱立し、抗争を繰り返していました。そこに、メキシコ連邦警察出身の元刑事ミゲル・アンヘル・“フェリクス”・ガジャルドという男が現れます。彼は小さな組織を統合し、大規模な麻薬カルテル連合“プラサ”の構築に挑みます。

フェリクスはメキシコの警察や政治家を抱き込み、麻薬ビジネスを展開。自家栽培の大麻やコロンビアから仕入れたコカインをアメリカへ輸出し、莫大な利益を上げていきますがその時、正義のヒーローが立ち上がります。アメリカ麻薬取締局(DEA)の捜査官エンリケ・“キキ”・カマレナは、メキシコの構造的腐敗に苦しみながらも、正義感を胸に熱い捜査を続けていくさまは臨場感たっぷり。

こうしてスタートした警察VSマフィアの、血を血で洗う仁義なき戦い。物語が進むにつれて感じるのは、「とにかく腐った奴が多過ぎ」。警官や軍人、政治家たちが、どうしようもないくらい賄賂まみれ。腐った奴がいるから、話がややっこしくなる。麻薬の売人は犯罪者ですが、ある意味、純粋でマシな人間に見えてきてしまうほど。

救いようのない話ではありますが、映像の美しさが印象的。マフィア映画って、意外なほど風景描写がきれいなんですよね。ゴッドファーザーで“シシリー島”に惹かれたように、『ナルコス: メキシコ編』では砂漠地帯の広大な大麻畑に心が動かされました。残酷なシーンが多いので、より風景が美しく見えるのでしょうか。終わりのないメキシコ麻薬戦争。2022年現在も抗争は続いています。

『ピーキー・ブラインダーズ』/ギャングの成り上がりが見どころ

ピーキー・ブラインダーズの実質的なリーダー、トーマス・シェルビー。冷静沈着で頭の回転が速く、しかも家族思いです。Netflixシリーズ『ピーキー・ブラインダーズ』シーズン1~5独占配信中。

マフィア映画のもう一つのおすすめは『ピーキー・ブラインダーズ』。第一次世界大戦後のバーミンガムに実在したギャング集団「ピーキー・ブラインダーズ」を題材にしたドラマで、リーダーのトーマス・シェルビーと、彼らの排除に挑む捜査官の駆け引きを中心に物語が進んでいきます。

『ナルコス: メキシコ編』とは異なり、こちらのドラマはスタイリッシュな作風。主人公トーマス・シェルビーが成り上がっていく様子が爽快で、知的なかっこよさを感じます。本国イギリスでの人気は凄まじく、ドラマ公開後はバックを短く刈り込んだ2ブロ風の髪型にハンチング帽を被るピーキー・ブラインダーズ・スタイルの男性が街にあふれたそうです。

「ピーキー・ブラインダーズ」はシーズン7まで制作される予定で、すでにシーズン5まで放映済み。2022年にシーズン6が公開されます。1シーズン6話と短めなので、簡単に追いつけます。旬のマフィアドラマを、ぜひ一度体感してみてください。

第一回「女性の力強い生き様に共感。胸アツ、サクセスストーリー」はこちら

TEXT=川岸 徹

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