役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
本当の幸せとは?
そろそろ入梅の季節ですが、じめじめした時にこそ、カラッとした映画を観たいもの。滝藤、まさに心が晴れ渡る作品と出合ってしまいました。インドのムンバイから母親の遺灰とパスポート、そして100ユーロの偽札と航空券だけで、まだ見ぬ父親に会いにパリへ旅に出てしまう青年アジャのお話です。
『バルフィ!人生に唄えば』『きっと、うまくいく』などインド映画は本当に面白い! そして、いつも思いますが、色使いがカラフル! 本作も母親の着ているサリー、大人になったアジャの青いスーツに黄色いシャツ、街の風景やインテリアなど、最初から最後まで鮮やかな差し色の使い方が素敵。センスのよさは、観ていて心躍ります。
貧富の差が激しいインド。主人公は子供ながらに、人は生まれもった運の持ち分が決まっていて、そのなかで勝負しなくてはいけないと悟ります。ウチは貧乏だと不満を爆発させる少年に、母親は「こうやって家族で食事できるだけで幸せだ」と一喝。そのとおり! 日々の小さな幸せを当たり前だと思ってはいけないのだ。ついつい忘れてしまうんですよ。はあ〜、自分の欲深さを反省。
大人へと成長したアジャは、幼い頃から憧れていたパリの家具店で大冒険に出発します。こっそり、ひと晩だけ寝床を借りようと売り物のクローゼットの中に忍びこんで寝ていたら、知らぬ間にイギリスへ配送され、その後、スペイン、ローマ、リビア、ヨーロッパへと各地を転々とする羽目に。アジャはそのたびに、母親の言葉を思いだしては、幸せとは何ぞやと考えさせられるのです。
主人公・アジャ役のダヌーシュさんは『ムトゥ 踊るマハラジャ』のインドの大スター、ラジニカーントの娘婿。また、途中に出てくる大女優役は世界的大ヒットを記録した『アーティスト』のベレニス・ベジョ。お決まりのインド式大舞踏を繰り広げるシーンにもハッピーな気持ちにさせられます。こういうファンタジーを滝藤もいつか、演じてみたいなあ。最後の最後までポップで粋な映画で、私、大満足でございました。
『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』
自身も国と仕事を転々としたロマン・プエルトラスの小説『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』(小学館文庫)を映画『人生、ブラボー! 』のケン・スコットが映画化。憧れのパリの家具店で理想の女性と出会いながらも、パリに戻れなくなる青年の痛快旅物語だ。
2018/フランス、ベルギー、インド
監督:ケン・スコット
出演:ダヌーシュ、ベレニス・ベジョ、エリン・
モリアーティほか
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
6月7日より、新宿ピカデリーほか全国公開