役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
倒錯していくふたりの恋愛模様、どんどん度を越えて......。
ダニエル・デイ=ルイス61歳、俳優引退作!だそうです。前も靴屋になるから俳優引退するとか言っていたような ......。彼はひとつの役の準備に2年も3年もかけるとのことなので、燃え尽きてしまうんですかね。
この『ファントム・スレッド』では1年間、仕立て屋で修業し、最終的には独力でドレスを作れる腕前になったそうで。引退後は仕立て屋になるとか。もうこれ、役作りなのか何だかわかりません。それに引き換え僕なんて、未練タラタラ。死ぬまで俳優という職業にしがみついていく所存でございます。
作品のほうは仕事中毒である読者の方ほど響く内容かと推測します。舞台は1950年代のロンドン。ダニエル・デイ=ルイスが演じる主人公はオートクチュールのデザイナー。経営を担当する姉共々独身で顧客のために身を捧げてきたところ、ある若いウェイトレスのスタイルに惚れこみ、モデルに採用。しだいにこの若い女性が彼の生活を侵食し始める。
国際スターのダニエル・デイ =ルイスと好対照をなすように、この女性役のヴィッキー・クリープスはルクセンブルク出身の新人女優。垢抜けない田舎っぺという感じなんですが、話が進むにつれミステリアスで魅力的に見えてくる。彼女が朝食で無神経に立てるフォークの音やお茶を入れる雑音に気が散り、生活のルーティンが崩されていくあの嫌な感じ。仕事にまで口を出してきて、観ているこっちまで、我慢できなくなるあの存在感。仕事以外、何にも要らないと私生活を削ぎ落として暮らしていた男。しかし、いつの間にか、女性に人生をコントロールされていく様に、胃がキリキリしてくる。
緻密に構成されたラブストーリーかと思いきや、ラストは監督ポール・トーマス・アンダーソンの変態っぷり炸裂!『マグノリア』で突如、蛙を雨のように降らせる人ですから、ただでは終わらない。B級サスペンスのような展開もザ・ポール・トーマス・アンダーソン!彼が撮ったことで、なんか意味ありげに見える。これは、ハッピ ーエンドなのかそうでないのか。ある意味、究極の愛です。
『ファントム・スレッド』
P・T・アンダーソン監督が『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』で組んだダニエル・デイ=ルイスを主演に迎えた重厚な人間ドラマ。1950年代、ロンドンのオートクチュールのスタジオを舞台に、天才デザイナーとモデルの若い女性との、愛と野心が絡み合う。アカデミー賞で衣装デザイン賞受賞。
2017年/アメリカ
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープスほか
配給:ビターズ・エンド、パルコ
5月26日よりシネスイッチ銀座ほか全国公開