アウディが初めて日本導入したBEV(Battery Electric Vehicle)が、スタイリッシュなクーペSUVのアウディ e-tronスポーツバック。続いて、オーセンティックなSUVであるアウディ e-tronが登場した。e-tronのグレードは3種類で、ベーシックモデルのほかに装備が充実した「アドバンス」、スポーティな演出が施された、今回紹介する「Sライン」の展開となる。アウディは2025年までに20車種のBEVを投入するとアナウンスしている。連載【NAVIGOETHE】Vol.59
移動の価値を再定義するアウディ流EV
「EVの時代になると、いろいろな企業が自動車産業に参入する」というニュースを見かける、確かに。EVは、言ってみればラジコンを精密にコンピュータ制御するようなシンプルな構造だ。これなら造れそうな気がするし、アップルやグーグルが造るロボットEVとか、アマンがプロデュースするリゾートEVなどなど、夢が広がる。
一方で、そんなに簡単か? という疑念もある。そんなことを考えながら、BEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走る純粋なEV)のSUV、アウディ e-tron50クワトロ Sラインで、都内から長野県茅野までの約190㎞のツーリングに出発した。
ストップ&ゴーが連続する都心部では、EVのスムーズさに心を奪われる。同時に、エンジンの面倒くささを思い知る。燃料を噴射して、爆発させて、ピストンを動かして、それを回転運動に変換してタイヤに伝えるというエンジンの工程は煩雑だ。おまけに、ある程度まで回転を上げないと最大の力を発揮しないというわがまま者。対するモーターは、電流がピュピュッと流れた瞬間に最大の力を出してくれる。だからレスポンスがいいし、赤信号からの発進も力強くてストレスがない。
高速道路でも、ノイズや振動のない車内は快適だ。会話が減った熟年夫婦だと気まずくなるんじゃないかというぐらい静か。なのでそんな時にはオーディオのスイッチを入れる。バング&オルフセンの豊かなサウンドが心を潤し、ふたりを出会ったばかりのあの頃に引き戻してくれる、かもしれない。
驚くのは高速クルーズでの素晴らしい乗り心地で、イギリスの自動車専門誌にたまに登場する「マジックカーペット・ライド(魔法の絨毯のような乗り心地)」というフレーズが頭をよぎる。これは、標準装備のアダプティブエアサスペンションの手柄だ。路面のコンディションや運転の状況に応じて、瞬時に足回りのセッティングを変えるこの仕組みには、「高級な乗り心地とは何か?」を考え続けてきたアウディの技術者たちの英知が詰まっている。これを、例えば電機メーカーがすぐに真似できるものだろうか?
長野の美しいワインディングロードを駆け抜ける。アウディのコーナリングはしばしば〝オン・ザ・レール〞、すなわち線路の上を走るように正確だと評される。このクルマも、思い描いた理想のラインをぴたりとトレースする。気持ちがいい。この仕組みには、アウディ独自の4駆システムであるクワトロが貢献している。4つのタイヤそれぞれに適切なトルクを与えることで、ぴたっと曲がるようになっているのだ。
クワトロは、モータースポーツの極限のバトルで磨かれた技術。アウディはお洒落なメーカーだと思われがちだけれど、もともとは理系の武闘派集団だ。命を懸けて磨き上げたこの技術を、ゲームでクルマを知った気になったモヤシっ子が真似できるのか。おまけに、電光石火の素早さで、超精密にトルクを制御できるモーターのおかげで、アウディの〝オン・ザ・レール〞感は3割ほど増量している。
こうしてみると、やはり誰もがEVを造れるとは思えないのである。正直、まだBEVには充電という課題がある。でも、エンジン車の黎明期にいろいろな問題を解決できたのは、クルマを面白がった貴族や企業家がバンバン乗り回したからだ。
環境だけでなく、快適さやスピードの刺激という意味でも電動化は明白。多少の面倒は承知で新しい価値に飛びこむ興奮を味わうのか、それとも絶対に安心になるまでみんなと一緒に待つのか。どちらかだ!
アウディ e-tron
50 クワトロ Sライン
ボディサイズ:全長4900×全幅1935×全高1630mm
ホイールベース:2930mm
システム最高出力:313ps
システム最大トルク:540Nm
駆動方式:AWD(クワトロ)
乗車定員: 5名 車両価格:¥11,080,000~
問い合わせ
アウディ コミュニケーションセンター TEL:0120-598-106