資生堂が展開するブランド「BAUM(バウム)」が、20代、30代の男女に支持されている。けっして安価ではなく、なおかつコマーシャルなども見かけないこのブランドが、なぜ今若者に選ばれているのか。その理由を、BAUMグローバル コミュニケーション マネジャーの言葉から探る。
商品自体に物語があれば、すぐに拡散される
今、20代30代を中心に人気を集めているスキン&マインドブランド「BAUM(バウム)」をご存知だろうか。2020年に資生堂からローンチして以来、樹木の成分を使用したナチュラルなスキンケアや、アロマスプレーといった香りの商品などを展開。パッケージに木を使ったデザインが特徴的なブランドだ。
資生堂のBAUMグローバル コミュニケーション マネジャー、カレメル梓さんは、そのブランドコンセプトをBAUMの歴史とともにこう語る。
「煌びやかな豊かさではなく、心で実感する豊かさ。そういうものを追い求めて私たちはBAUMのコンセプトを作りはじめ、『樹木との共生』に行きつきました。
樹木は植物のなかでも長寿で知られる生命体で、なかには何千年も生きるものもあります。そのような大樹は、朽ちてなお他の植物の栄養となり森を支えていく。また、木を切って使用してもまた植えることで、森を育てながら活用するという循環をつくることもできます。
『サステナブル』、つまり『持続可能な循環型社会』が叫ばれている今、まさに樹木と森は、私たちが目指す社会に大事なものを教えてくれる。そう考えたのです」
スキンケア商品には、樹木の根、幹、樹皮、葉、果実から豊かな恵みを抽出して使用。パッケージはプロダクトデザイナー・熊野亘氏のデザインにより、オーク(ナラ)の木があしらわれ、ナチュラルでありながら、スタイリッシュな印象に。さらにこのオーク(ナラ)の木は、木工家具メーカーの「カリモク家具」と協力し、家具制作の際に出た小さな木材(端材)を活用している。取り外しが可能で、レフィルだけを取り替え、木枠はそのまま何度でも使用できる。
また店頭でその苗木を育て、岩手県に保有する「BAUM オークの森」に毎年600本を植樹し、育てる取り組みも行っている。BAUMを使うことで、ユーザーは樹木を身近に感じつつ、森を守ることもできるというわけだ。
価格帯は化粧水でおよそ7,000円。毎日使うものなので買い替えのサイクルも早く、20代にとってはけっして安い買い物ではないはず。にもかかわらず20代の男女が買い求める、その理由はなんなのだろう。カレメルさんは、ブランドローンチ当時を振り返ってこう語る。
「奇しくもBAUMのローンチは2020年のコロナ禍真っ只中でした。『新商品を体験しに店頭に足を運んで試してみてください』と言えませんし、メディアをご招待して、ブランドを紹介するローンチイベントなども開催できませんでした。そこでInstagramを中心としたSNSでの展開に重きを置いたんです」
Instagramでは、まずはアイコニックな商品を印象的にみせることで認知を獲得したほか、家から出られない時期の「おうち時間」を心地良く過ごせるよう、デジタル上の体験とともにサンプルを送るなど、地道に広報活動を重ねていった。商品のスタイリッシュな見た目と、サステナブルなブランドのストーリーは徐々にSNS上で拡散され、当初見込んだ層よりも若い世代を取り込みながら、売れ行きを伸ばしていったという。そして現在も、Instagramの問い合わせにカルメルさん自身が返信するなど、SNSを介したユーザーとのコミュニケーションを行っている。
「BAUMには、樹木の心地良さ、サステナブル、香りの良さ、デザイン性など“語れるストーリー”がたくさんあるのが大きな強みだと思っています。20代の方々は、商品の『ストーリー』を大事にして購入するものを選んでいる印象です。また彼らはちょっとした贈り物を日々、友人同士で贈りあっています。『このパッケージ、いいよね。家具の端材を使っているんだって』『樹木の香りで森林浴をしている気分になれる』など、贈る際にストーリーを語ることができるものが、選ばれやすいように感じました」
また、当初は資生堂がこれまで出会ってこなかった人々と出会うことを意識。デザインやアートに興味があり、サステナビリティを身近に考えているような層と繋がるために、発売当初はあえて「資生堂」のブランドという発信はせずに、先入観なくフラットにBAUMを知ってもらう工夫をしたという。
『自然のものだから仕方ない』という妥協は一切なかった
ブランド設立までも、BAUMにはさまざまなストーリーがあった。
そもそも資生堂は長年、化粧品やスキンケアの研究・開発を行ってきた会社だ。最先端科学を用いて商品を作ってきたからこそ、自然由来のナチュラルな「BAUM」は当初異端だったのだという。
「これまで、使い心地、肌への実感、効果を研究し続けてきた会社です。自然由来成分90%以上でスキンケアを作り上げるとなっても、その効果への厳しい基準は変わりません。『自然のものだから仕方ない』となにかを諦めることは決してできませんでした。ですから、他の商品よりも多く試作品が作られ、完成までには時間がかかったんです。
また自然由来かつ循環型の商品である『サステナブルビューティー』というジャンルは、当時当社にはありませんでした。前例がないという意味で、苦労したことも多くありました」
新しいものを作り出す時、それがどんなものであろうとも、最初は周りを巻き込むのに苦労するものだ。「そんな商品、本当にできるのか」などの声もあったが、BAUMチームは社内のひとりひとりを説得し、納得のいく製品を作りあげた。
「肌に直接触れるものを作る、その工程でパッケージが木であることも大きなハードルでした。⽊は⾃然な素材であり、⽊材加⼯の際には⽊屑やチリなどが出やすく、⼯場はそのような環境下にあります。また、衛⽣管理の観点からも課題があったのですが、カリモク家具さんが専⽤のクリーンルームを作り、そこで出荷検査や梱包などをし対策するという施設の整備からご尽⼒くださり、ハードルを越えることができました。カリモク家具さんをはじめ、BAUMのコンセプトに共感いただき、企画の段階から商品のファンになってくださった方々のおかげで、こうして商品をお届けすることができているのだと思います」
200年経っても強度を増し続ける“ひのき”にヒントを得たリニューアル
ブランドローンチから4年となった2024年4月、主力であるスキンケアライン5品が「ひのき水」を配合してリニューアルされた。
「奈良の法隆寺はひのきを使って建てられています。1300年を経ても今もなお頑丈って不思議ですよね。ひのきは切った直後から強度が増して、伐採200年後に強度のピークに達するのだそうです。そこから1200年経っても、伐採直後程度の強度は維持し続けられる。そんな強さのあるひのきが、肌にも効果があるのではないかと3年かけて研究をしてきました」
四国産のひのきをチップ状にし、そこからエッセンスを抽出。それを濾過・蒸留して抽出したのが、配合している「ひのき水」だ。肌の貯水力を高めてうるおいバランスを整え、乾燥などに負けない肌に導くのだという。エイジングケアも期待できそうだ。
さらにひのきのいい香りに使うたび癒やされ、スキンケアの時間をリラックスタイムに変えてくれるのもうれしい。これまでどおり、男性も女性も使用できるジェンダーレスな商品なので、家族やパートナーと共有するのもいいだろう。
「ブランド立ち上げ直後からの研究が実り、樹木由来成分の中心となる『ひのき』を主力スキンケアに加えることができました。またBAUMは、木のパッケージなのでインテリアにもなじみやすく、キャビネットにしまわずに出しておくという方もいらっしゃいます。肌だけではなく、みなさまのライフスタイルにもうるおいを届けられたらうれしいです」
Z世代は、お金を使わない。そんな定説が、中高年のなかではまことしやかに囁かれていたこともあった。けれど実際は、お金を使わないのではなく、物語のあるもの、そして未来のあるものを選んでいるのだろう。「樹木との共生」というコンセプト、そして物語を持って、商品を作りマーケティングを続けるBAUMのヒットから、そんな彼らの価値観が見える気がする。
そして、そのような“語れる”ストーリーを持つBAUMは、Z世代のみならず、いいモノを知っている大人世代も唸らせるブランドであることに違いない。まずはひとつ、パートナーや友人に贈ってみてはいかがだろうか。