巨匠フランク・ゲーリー氏が、世界中で愛されるコニャック、ヘネシー X.O 150周年記念ボトルを制作。今回、日本で唯一、ゲーテだけが直接取材に成功! 91歳のレジェンドの肉声をお届けする。
たどり着いたハンドメイドの質感
「失礼ですが、あなたは建築家というよりは、彫刻家だと思う」
ある日イサム・ノグチが、そう本人に言った通り、建築家のフランク・ゲーリー氏の作品は一見とても型破りだ。ビルバオ・グッゲンハイム美術館や、パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンなど、今にも動きだしそうな造形でこれまで幾度も世界を驚かせてきた。特にビルバオは、その建築見たさに観光客が殺到、「デザイン」が多大なる経済効果を生み出すことを証明した歴史的例でもある。
建築家にとってのノーベル賞と称されるプリツカー賞を始め、名だたる賞を受賞してきただけでなく、後世のさまざまなアーティストに影響を与え続ける御年91歳。しかしゲーリー氏は自身が“the master of Postmodern architecture(ポストモダン建築の巨匠)”と呼ばれることを、嫌がる。
「そんな風に呼ばれるのは恐れ多く責任が重すぎますよ。今日のインタビューの質問の答えを用意してきたのに、忘れてしまったじゃないですか」
そう笑いながら、ゲーリー氏は机の上のアートピースに触れた。24金でコーティングされたブロンズと、ガラス素材で作られたヘネシー X.O 150周年 マスターピース。ゲーリー氏のデザインした「最新作」だ。
「こういうお酒は、家族の祝い事に使うもの。だから、ボトルも彫刻のように飾ることができる“特別”なものであるべきです。私はこれをテーブルの真ん中に置いているんですよ」
ゲーリー氏は今回、ヘネシーのメゾンを実際に訪れ、敷地内に流れる川や土からインスピレーションを得てボトルを作り上げたという。
「長い時間をかけて発展し、代々受け継がれてきた土地で、私はメゾンのファミリーの皆さんと会い、このコニャックが彼らの人生そのものだと知りました。祝い事で使われるということは、重要な役割を担っているということ。ですから、ボトルもただラベルを貼っただけのものにはしたくなかったのです。私はこの液体を造り出す工程がいかに繊細な作業なのかということを深く理解しましたし、最高峰のボトルを造るべく依頼されたのだと感じました」
そして今回ボトルに選んだ素材は、ブロンズ。実はとても思い入れがある素材なのだという。
「以前ギリシャのデルフィに行った際、とある古い銅像(the Chariot and the Statues of the Charioteer)を見かけました。その像には『作者不詳』と書かれていました。とても美しく力強いもので、眺めていると自然と涙が溢れてきました。500年以上前の人が、ブロンズという無機質な素材で、ここまで感情を揺さぶるものを造ることができるのだと、感銘を受けたのです。以来、古代ギリシャなどのブロンズ像を注意深く観察するようになり、どれもとても力強く創造的なものであると気がつきました。だからこそ、いつか私もそのようなものを造りたかったのです。もちろん、その銅像のように私の作品には500年という背景はありません。だからこそ、この素材を徹底的に調べ尽くし、技法を探りました。通常私が建築をデザインする際も『素材』を理解し研究することから始めます。若い頃は木材を主に研究し、その後は石材・金属についてのリサーチを重ねてきました。今、新しい『素材』を見つけ出し研究できることが嬉しいのです」
そうして今回のブロンズ研究の果てにたどり着いたのは「ハンドメイド」の質感。ひとつひとつが人の手で作られ、職人たちの指紋までが織り込まれているという。
仲間と語り合う時間
トラックの運転手をしながらデザインと建築を学び、徴兵中も軍事施設の建設を担当してきたゲーリー氏。このコニャックと同じように、自身も長い時間を、そして人生をかけて建築に取り組んできた。だからこそ今の建築の捉えられ方に思うこともあるのだという。
「かつてはミケランジェロやエル・グレコらのように、建築家は芸術家でした。彫刻や絵画を創作し、その延長線上で建物を造っていた。しかし第二次世界大戦以降、商業的な建物が多くなり、芸術から疎外されてしまった。そもそも建築はお金がかかりすぎると言われる。しかし、ジャスパー・ジョーンズの絵はどうですか? 高価な金額で売っていますが、描くのにそんなに費用はかかりません。それは彼の作品に込められた魂と才能の価値なのです。建築も同じではないでしょうか。確かに、美しいものを高価ではない素材で造ることも可能です。実際私が造ったウォルト・ディズニー・コンサートホールだって、他のどのホールよりも低予算で実現できたんですから。それでも、商業を超えたところに昇華することができた。これからは建築がより芸術として扱われ、楽しまれる存在になることを願います」
ちなみにここでゲーリー氏が語ったウォルト・ディズニー・コンサートホールは、氏の代表作として語られることの多い建築だが、実は日本建築の影響を多大に受けている。ロサンゼルスと日本は気候が似ており、日本的工法が取り入れやすいと考えたゲーリー氏は、コンサートホール内部に「神社」をモチーフにしたオルガンスペースを設計。また音響設計の豊田泰久氏の計らいにより、ゲーリー氏が望んだ雅楽の演奏が行われたこともあったという。
時に奇抜と捉えられるその建築は批判を浴びたり、実際には建設が叶わなかったものもあった。そのキャリアのなかで、挫折や不安とどう向き合ってきたのか尋ねると、ゲーリー氏は微笑みながら話し始めた。
「ひとりでは乗り越えられませんでした。自分が何をしているのか、わからなくなってしまったこともあります。しかし、私には不安を話せる仲間がいました。彼は、私が他人にどのように見られているのかを教えてくれたのです。それを知ることで、不安が解消され、創造することを楽しめるようになりました。皆さんも、不安な時は人にしっかりと話してみてください」
伝説が生まれる背景には、コニャックを嗜みつつ、仲間と語りあう時間が必要かもしれない。
黄金に輝くその新作が、改めてそれを教えてくれた。
Frank O. Gehry
1929年カナダ・トロント生まれ。アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活動。建物の既成概念を覆す独特な造形美で知られる。プリツカー賞、高松宮殿下記念世界文化賞ほか数多くの賞を受賞。
Hennessy X.O
誕生150周年を記念した、スペシャルコラボレーションボトル「ヘネシー X.O フランク・ゲーリー リミテッドエディション」。10月7日より限定発売。¥24,600(MHD モエ ヘネシー ディアジオ TEL:03-5217-9731)