GOLF

2024.07.28

32歳でこの世を去った、広島“炎のストッパー”津田恒実「弱気は最大の敵」

プロ野球の広島カープに、かつて「炎のストッパー」と呼ばれた津田恒実という投手がいた。高校卒業後、社会人野球を経て1981年のドラフト会議で広島カープに1位指名され入団した。

炎のストッパーの座右の銘

先発投手としてスタートした初年度は11勝をあげ、新人王に輝いたが、その後は肩関節の異常や中指の血行障害など、怪我に悩まされ登板機会が減った。しかし、手術やリハビリに耐え、1986年には抑え投手として復活、チームのリーグ優勝に貢献したことでカムバック賞を受賞した。

 

その後も怪我に苦しむことは多かったが、1989年には闘志むき出しの150kmを超える剛速球と鋭いカーブで、12勝5敗28セーブをあげる華々しい活躍を見せ、最優秀救援投手、ファイアマン賞に輝いて復活した。敢然と打者に立ち向かうその姿から、「炎のストッパー」と呼ばれ、ファンを熱狂させた。

しかし、1991年に脳腫瘍が発見され、手術困難な場所だったため退団して療養したが、1993年7月20日、32歳の短い人生を閉じた。当時のスポーツ新聞に「津田が死んだ!」という極めてダイレクトな見出しが載ったのを鮮明に覚えている。

その津田投手の座右の銘が「弱気は最大の敵」で、本人はボールにその言葉を書き、常に持ち歩いていたそうだ。マツダスタジアムにはこの言葉が書かれたプレートが設置されていて、今もカープの若手投手を奮い立たせている。

津田投手がこの言葉を座右の銘としたのは、高校時代の甲子園での敗戦に由来している。1978年8月15日、強豪・天理(奈良)との2回戦は、中盤までゼロ行進。津田投手は毎回走者を背負いながらも、要所を締めて無失点にしのいでいた。

五回1死、走者無しの場面。右打席に8番打者を迎え、ストライクを取った後の2球目だった。捕手が要求した外角の直球に珍しく首を振り、自らカーブを選んだのだ。甲子園特有の浜風が吹いていた。カーブは抜け気味に真ん中高めとなり左翼ラッキーゾーンへと運ばれた。公式戦で初めて浴びた本塁打が決勝点となり、敗退してしまった。

津田投手は剛速球の資質を持ちながら、優しい性格で、打者を背負うなどすると弱気になってボールを置きにいき打たれてしまう傾向があった。死球を恐れ、内角へ投げ込むのも苦手だった。その弱気がカーブを投げさせ、決勝点となるホームランを浴びたのだ。

この試合以後、津田投手は弱気を抑えこむメンタルの鍛練をしたそうだ。2年生の夏、山口大会の1回戦で完全試合を達成した。これを機に、自信を持った強気のピッチングができるようになった。人間は努力すれば変われることを、津田投手は証明したのだった。

ゴルフもメンタルコントロールが重要

ゴルフというゲームも、弱気になってしまうシーンが多いものだ。OBや池などが目に入ってくると、ナイスショットできる自信がゆらぎ、弱気になって当てにいくようなスウィングになってしまう。フェァウィウッドを持つと「トップしてゴロになるんじゃないか」とか、アイアンを持つと「ダフるのではないか」と心配になる。これも弱気のあらわれだ。

アプローチショットでは、「ザックリやるんじゃないか」、「トップしてホームランになるんじゃないか」、「シャンクするかもしれない」と弱気になる要因はさらに増える。とくに、パッティングでは「もっと曲がるかもしれない」、「いや、案外曲がらないかもしれない」、「パンチが入るかもしれない」、「距離感はこのストロークでいいのか」などなど、考えれば考えるほど弱気になってしまいがちだ。

このように、弱気な気持ちが入り込んできてしまうと、ナイスショットやナイスパットできる確率はかなり落ちてしまう。大体が心配したとおりのミスになってしまうものだ。ゴルフにおいても「弱気は最大の敵」であることは、共通しているのだ。

だからといって、闇雲にガンガン攻めればよいかというと、これもまた大荒れのゴルフを招くことになる。強気ばかりでも上手くいかないのがゴルフの難しいところだ。パッティングの名手として知られた、ジャック・バーク・ジュニアは次のように言っている。

ゴルフに必要な感情。それは、コントロールされた激しさ

つまり、闘争心のような激しい感情がまったくないのも問題で、自分でコントロールできる範囲なら強気も必要ということだ。ゴルフ評論家のヘンリー・ロングハーストもこんなことを言っているから、それは間違いない。

攻撃が最良の防御法であるとは、ゴルフでも真実である

つまり、ゴルフでは弱気になって守るばかり、怪我をしないように曲げないことばかりに注力していては、よいプレーは望めない。まさしく「弱気は最大の敵」なのであって、実力を出せないばかりか、パフォーマンスを下げるばかりなのだ。

しかし、強気一辺倒で攻めてばかりでも、出入りの激しいゴルフになってしまい、バーディの数は増えても、ダボ・トリも増えてしまって、いいスコアにはならない。なぜなら、ダボ・トリを打つ方が、バーディを取るより簡単だからだ。

マッチプレーなら、強気に攻めて大たたきしても1ホールを失うだけだが、ストロークプレーでは、ダボを取り返すには2ホール、トリプルを取り返すには3ホールでバーディを取らなくてはならない。ミスをしても、何とか最小オーバーのボギーに収められるように、コントロールされた感情でいなければいけない理由がそこにある。

事前にやることを心に決めきることが大事

ただ、強気になり過ぎるのを抑えることは、まだしやすいのかもしれない。なぜなら、強気に攻めるには勇気を必要とするからだ。その勇気を持続することが難しいから、津田投手はボールに「弱気は最大の敵」と書いて、さらに肌身離さず持ち歩いたのだ。

津田投手は、弱気を封印し「炎のストッパー」となったが、強気一辺倒だったかといえば、そうではなかったはずだ。いくら剛速球だといっても、ただ球が速いだけではプロの打者は打ち返してしまうだろう。だから、タイミングを外す鋭いカーブを混ぜたり、直球も外角低めや内角高めなどのコーナーをついたりしたに違いない。

一見、がむしゃらに投げているようでも、そこにはコントロールされた強気の感情があり、打たれないよう投げ分ける冷静さも持ち合わせていたはずなのだ。ただ、一度決めたらもう迷わず、気迫をこめて渾身の力で投げ込んでいたのだろう。

これは、ゴルフにも共通するメンタルの持ちようだ。ショットでもパットでも、事前にやることを決めきることが大事だ。そして決めたらもう迷わないことで、弱気が入り込むのを阻止できる。そして、決めたからには、もし失敗しても悔やまないと割り切ることだ。そうすれば、ナイスショット、ナイスパットが打てる確率は上がるに違いない。

我ら、凡人の草ゴルファーは、このメンタルコントロールが総じて下手なのだ。ショットの前にどういう弾道で打っていくかを決めきれていない。パットの前に打ち出すべきラインを決めきれていない。決めきれていないから、弱気な心配が入り込み、ミスをする。割り切っていないから失敗すると悔やむし、それが尾を引いてしまう。

ラウンドの後で、大たたきしてしまったホールを反省すると、技術的な未熟によって引き起こされたケースよりも、こうした弱気を抑え込めずに発生したミスがほとんどなのではないだろうか。

「打つまでは、まだ失敗していない」とトム・モリス・シニアは言ったが、多くの凡人ゴルファーは打つ前に弱気が入り込み、その時点ですでに失敗してしまっているのかもしれない。

打つ前に弱気になってしまうのを防ぐには、何度も言うようだが次の3点を確認したい。

  • どんなショットを打つのか、どんなパットをするのかを、決めきれているかどうか
  • 一度決めたらもう迷わないと、決意したかどうか
  • その結果がミスになっても悔やまないと、割り切れたかどうか

これを確認したら、あとはコントロールされた強気でもって実行あるのみだ。特に、グリーンに近いアプローチショットやカップに近いパッティングでは、多少の無理も押し通すぐらいの強い気持ちでもいいかもしれない。カップに近いところからのショットやパットならば、多少無理をしても、ボギーでは済ませられることが多いし、無理が通って成功し、パーを確保できることも多いからだ。

津田投手のように、帽子のツバやグローブなどに、「弱気は最大の敵」と書いて身につけておき、ショットの前にそれを見て自分を奮い立たせるのも、効果があるかもしれない。

参考資料:
「「弱気は最大の敵」 炎のストッパー・津田恒実が心に刻んだ一球」朝日新聞デジタル、2024年7月5日

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:ゴルフは名言でうまくなる
岡上貞夫

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