インターネットやSNSの普及からあらゆる時代の時計が簡単に入手できるようになった。そうはいったところで、パーツの整合性や真贋の問題が問われるヴィンテージウォッチの品定めは一筋縄ではいかない。この連載「ヴィンテージウォッチ再考」では、ヴィンテージの魅力を再考しながら、さまざまな角度から評価すべきポイントを解説していく。第6回は、オーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンが手掛けた超薄型ケースを紹介する。【過去の連載記事】
ジャガー・ルクルト製の超薄型ムーブメントを搭載した個性派モデル
この数年、ラグジュアリースポーツウォッチの爆発的なブームによって、高級時計の世界では圧倒的にスポーツウォッチが支持されている。一方、ドレスウォッチの人気はやや下火だと言わざるを得ないが、実際にヴィンテージウォッチの市場を見渡すと魅力的なモデルが豊富に見つかる。
ここで紹介するのは、極薄ケースを持つオーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンの2針仕様のモデルである。実は両者の間には大きな共通点があり、ジャガー・ルクルトの汎用ムーブメントCal.803をベースに、オーデマ ピゲはCal.2003、ヴァシュロン・コンスタンタンはCal.1003と、それぞれがチューンナップを行うことで極薄の手巻きムーブメントを手掛けている。
この当時、スイスの時計産業は水平構造と呼ばれる分業制が盛んであり、ジャガー・ルクルトは錚々たる一流ブランドにムーブメントを供給していた。さもすると不要にすら思える極薄のムーブメントの開発にはいくつかのメリットがあり、ひとつは優れた時計製造の技術力を提示できること、もうひとつはケースデザインの自由度を高められる点にある。
2つの時計を並べた状態で比較すると面白い。オーデマ ピゲのホワイトゴールドケースは、シンプルとよりもミニマムという言葉が当てはまる。針やインデックスの形状も然りで、1970年のデザイン特有のフューチャリスティックなデザインが見受けられる。片やヴァシュロン・コンスタンタンのイエローゴールドケースは、エングレービングが全面に刻まれたベゼルからも分かるように装飾的なデザインに特徴がある。同じジャガー・ルクルト製の汎用ムーブメントを使用しつつも、最終的には各社の個性はもちろん、時代感が外装全体に反映している点は非常に興味深い。
価格については、ヴィンテージウォッチの市場をリードするパテック フィリップやロレックスの人気モデルと比較すると、これらのドレスウォッチはかなり買い求めやすい。ただし、そもそもの製造本数が少ないため、いざ探すとそう簡単には見つからないので、チャンスを逃さないように注意したい。
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