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2023.01.28

【泉谷しげる】「春夏秋冬」は本当は違うタイトルだった!? そうせざるを得なかった理由とは

リリースから約50年が経過した今も愛され、聴き継がれる名曲「春夏秋冬」。この曲を筆頭に、数々のヒット曲を生みだしてきた泉谷しげるが仕事で大切にしていることとは。ゲーテ統括編集長の舘野晴彦が、浮き沈みの激しい音楽業界で50年以上にわたってトップアーティストとして君臨し続ける、泉谷しげるの仕事人の顔に迫る──。動画連載「2Face」とは……

人生が思うように進まない“敗者”のために歌う

興奮うずまく泉谷しげるのライブのなかで、観客の熱気が最高潮に達する瞬間。それはやはり、泉谷が「春夏秋冬」を熱唱するシーンだ。何度聴いても心に響く、名曲中の名曲。泉谷はどんな思いで「春夏秋冬」を書き上げたのか。

「『春夏秋冬』っていうタイトルは、そうせざるを得なかった理由があったんだ。本当はそんなタイトルにする気はちっともなくて。最初は『季節のない街に生まれ』というタイトルだった。でも、山本周五郎さんの小説に同じタイトルがあるっていうじゃねえか。このまま曲をリリースしたら、盗作だと思われてしまう。しょうがねえから、『春夏秋冬』っていう題名に変えたワケなんだよ。

でも、本当に偶然だった。『季節のない街に生まれ』というフレーズは、何も考えずに出てきたもの。都会生活には季節がねえっていうメッセージを歌いたかった。この曲を書いたのは1970年代の初め。'60年代から始まった高度成長期の空が光化学スモッグに覆われ、都市に季節感がなくなったことを歌にしているんだ」。

「時が流れ最近じゃ、"昭和はよかった"って簡単に言いやがる連中がでてくる。でもよ、本当によかったか? 高度成長期の急激な開発のせいで、海も川も汚れるし、ヘドロの川も生まれる。"昭和の頃に戻りたい"って言うヤツまでいるけど、オレは絶対に嫌だな。その思いを『季節のない街に生まれ』というフレーズに託したワケだ」

誰もが目にしている日常の風景を独特の視点で拾い上げ、詞を作る泉谷しげる。その歌詞は聴く者の心にストレートに響いてくる。

「確かに、日常を歌おうとは意識している。でも、できるだけほかのヤツらがやっていないことをやらねえといけねえのが、この職業のツラいところよ。ありふれたことを歌ったって、評価なんてされねえだろ。

それで、男たちの歌をやろうと思ったんだ。当時は女向けの歌ばっかりで。みんな、女ゴコロを歌ってやがる。だからオレは男に向けたメッセージソングを歌おうと思ったんだ。それも、さわやかなイケメンじゃなくて、人生が思うように進まない敗者のための歌。そんな歌をやるヤツいねえから、戦略がばっちりとハマって、ウケたっていう話よ」

男は精度を高め続けなければならない

「泉谷さんの新著のなかで、"音楽に最も重要なのは精度を上げること"という言葉が鮮烈だった」と話す舘野。"精度を高める"とは具体的にどういうことなのか、改めて聞いた。

「精度を上げるというのは、要は自分の音楽に集中しろってこと。ライブを見に来てくれるお客さんは、先払いでチケット代を払っているわけだろ。その分を歌や演奏で返してあげないと。だから愚直に音楽の精度を上げていくしかない。

でも最近はそこんところがわかってねえミュージシャンが多い。お客さんの顔色ばかりうかがって、挙げ句の果て『今日の客はノリが悪い』って文句をたれてるバカヤローがいっぱいいる。ノルかノラないかは、お客さんの自由だろ。客がノラないのは、オマエらの演奏が悪いから。お客さんはお金を払って見に来ているんだから、寝転がって見たって自由なんだ。

で、一人でできないヤツがバンドなんか組んだってしょうがねえ。バンドっていうのは、一人でやっていけるヤツが組むもの。その結果、予想を超えた素晴らしいものが生みだされるってワケよ。

そして、ライブのたびに"度を超える"。『なにも、ここまでやらんでも』ってくらいの特別なことをやって、お客さんに恐ろしさと快感を与える。それがプロのミュージシャンってものなんだな」

仕事の精度を高め、自分一人でも戦えるだけのチカラを身につける。それはミュージシャンに限った話ではない。「会社勤めのビジネスパーソンにも共通する」と泉谷は話す。

「ビジネスパーソンも、これからの時代はもっと個人の魅力で勝負したほうがいい。会社っていうのは最後の"切り札"。会社に頼ってばかりなのはいかがなものかと思う。そのためには、個人として精度を高めていかないと。やっぱり男っていうのは、カッコよく生きたいしな」

周囲に媚びない、破天荒な暴れん坊キャラで時代を切り拓いてきた泉谷しげる。一見、無鉄砲に見える生き方だが、その裏には時代を見極める目と生き抜くための戦略、そして精度を高め続ける精進の日々があった。「結局は自分のチカラ。一人でなんとかするしかねえ」。泉谷しげるの仕事人の顔は、自分自身を戒め、日々もがき続けながらも常に進化し続ける、まっすぐな男の顔だった。

■1/29(日)は、泉谷しげるのプライベートの顔を公開予定!

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「バカヤロー」ばかり言っている野獣キャラで人気を集め、近年はチャリティ活動に励むいい人キャラで時代を切り拓いてきた泉谷しげる。自身のキャラの変遷や、昭和の大スターから学んだキャラの作り方を指南する。

Shigeru Izumiya
シンガーソングライター・俳優
1948年青森県生まれ。3歳より東京都目黒区で育つ。1971年、アルバム『泉谷しげる登場』でデビュー。俳優としても活躍し、ドラマ『Dr.コトー診療所』や『三匹のおっさん』などに出演。

Haruhiko Tateno
1961年東京都生まれ。'93年、創立メンバーの一人として幻冬舎を立ち上げて以来、各界の著名人たちの多彩な作品を世に出し続ける。2006年に「GOETHE」を創刊し、初代編集長も務めた。

動画連載「2Face」とは……
各界の最高峰で戦う仕事人たち。愛する仕事に熱狂する姿、普段聞けないプライベートな一面。そんなONとOFFふたつの顔を探ると見えてくる、真の豊かな人生に迫る。

過去連載記事

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TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=倭田宏樹

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