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ビジョナリー・カンパニーを目指し、イノベーションを起こし続ける:中西 聖

プロパティエージェント株式会社 代表取締役
中西 聖

2007年の設立以来19期連続で増収増益を続けているプロパティエージェント。それを支えているのが、代表取締役社長の中西聖氏が掲げる経営理念、「空間の価値を創造、向上し、社会を進化させ、人の未来を育み最高の喜びを創出する」だ。理念と情熱、アイデアと合理性を武器に道を切り開いてきた中西氏の仕事術に迫る。


理念とビジョンに突き動かされ、起業を決意

不動産の企画開発や販売、プロパティマネジメント、クラウドファンディングなどをメイン事業に、近年はDX推進事業にも力を入れているプロパティエージェント。成長著しい同社を中西氏が興したのは、前職である不動産デベロッパー入社から6年目、27歳の時だった。理由は、「僕のなかに、現在、我が社が掲げる経営理念とビジョンができてしまったから」。

中西氏の心に火をつけたのは、世界的ベストセラー、『ビジョナリー・カンパニー』だった。

「本を読むのが好きで、とくに社会に出てからはビジネス関連の本を読み漁っていましたね。『ビジョナリー・カンパニー』を初めて手に取ったのは、24歳の時でしたが、ものすごい衝撃を受けて。会社にとって大切なのは、確かなビジョンを持ち、それを実直に守りながらイノベーションを起こし続け、社会に貢献すること。自分もそんな会社をつくりたいと、気持ちが震えました」

もっともすぐに起業に踏み切ったわけではない。抜群の営業成績で若くして管理職を務めていた中西氏は、経営陣との距離も近かった。まずは、「この会社をビジョナリー・カンパニーに変えようと」と志し、行動を始める。

「社長の車の運転を買って出て、毎日送迎の時に社長に吹き込んだんですよ。『会社の経営理念って大事ですよね』『社会貢献も必要ですよね』って。1年かけて画策しましたが、社長の反応は今ひとつ。これはもう自分でやるしかないなと」

ITの活用によって業界内での競争優位性を狙う

新宿の小さな事務所からのスタートとなったプロパティエージェントだが、結果が出るのに時間はかからなかった。当初は販売のみだった事業も、企画開発や賃貸管理、アフターサービスなど次々と拡大。躍進の理由は、顧客の満足度を重視したサービスの展開に加え、ITをいち早く活用したことにある。

不動産業界、とくに仕入れにおいては、長らく経験と勘が重視されてきた。それも一理あるだろう。が一方で、経験や勘を生かせるのは、長く業界に身を置き、しかも、成功体験を積んできた者に限られてしまう。その危うさにいち早く気づいた中西氏は、誰もが活用できるよう、AIによるアルゴリズムを用いて、相場や取引量などのビッグデータを分析。定量的に売買を判断するシステムを導入した。

「変化のスピードがすさまじい今、過去の経験で培った勘やセンスでビジネスを判断するのは危険。そもそも人は、合理的に行動するつもりでいても、感情など非合理なものに動かされやすいもの。だからこそ経営者は、合理的に意思決定することを常に意識し、自分の理念や想いといった非合理とのバランスをとりながら判断することが大切なのだと思います」

AIの活用は社内だけに留まらず、全国13万棟のマンションの相場価格や予想価格を即座に算出するサービスサイト、「ふじたろう」や、不動産売却を検討中の顧客に向け、簡易的に査定価格がわかるチャットボットといった新規事業にも生かされている。

さらに中西氏は、2018年から社内業務のデジタル化にも乗り出した。’22年5月に不動産関連文書の電子契約が全面解禁となったが、それまでの不動産業界は、何をするにも紙中心のアナログな業界だった。

「ペーパレス化とデジタル化を取り入れることで、非効率的な作業がなくなれば、社員はもっとクリエイティブな作業に時間を費やせます。また、自分の能力を発揮しやすい職場として、優秀な人材が集まる可能性も高まるはず。そう考えて踏み切ったのですが、想像していた以上に大変で(苦笑)。形になるまで4年近くかかりました」

落とし穴に陥ったからこそ新たな事業の柱が生まれた

完成間近のシステムをゼロから見直すなど、紆余曲折の末、社内のデジタル化を成し遂げた中西氏は、この経験をベースに新たな事業を思いつく。それは、自分たちの体験を生かしたDX推進事業である。

「僕らは素人ゆえに、コスト優先でツールを選んだり、完全自動化が正解だと思い込んで不必要な要素を取り込んだりと、さまざまな落とし穴に陥りました。そのせいで、時間も資金も予想以上にかかってしまった。どんな業界であっても、業務のデジタル化は今後ますます求められるでしょう。その時、これらの失敗を含め、僕らの知見が役立つのではないかと思い、システム構築やシステムコンサルティングを担う事業を立ち上げたのです」

同時に、顔認証を設備として導入し、エントランスやエレベーター、メールボックスなどを“顔パス”できるような「建物のDX化」もスタート。現在は、異なる企業による認証システムを一括化するプラットフォーム、「FreeiD」を展開するまでになった。

社内デジタル化に端を発したアイデアが、すさまじいスピードで形になった裏には、中西氏自身の“学び”が大きく関係している。仕事の合間を縫って、2015年には明治大学大学院でMBAを取得し、現在は、東京大学大学院で顔認証IDプラットフォームの処理技術について学んでいるという。多忙な中、学び続ける理由をたずねると、「仕事でやりたいと思うことに必要だから」という答えが返ってきた。

「事業に必要な知識やスキルは専門家に委ねればいいという意見もあるでしょう。でも、研究者ができることと、僕らが事業としてやりたいことが、必ずしも一致するわけではありません。であれば、目指すゴールが100%理解できている自分が学び、関わることが最も確実。週末、子供を遊ばせながらその横でレポートに目を通したり、夜中に論文を書いたりと、確かに忙しいです。でも、それはそれで、仕事とは別のアドレナリンが出て燃えるんですよね(笑)」

イノベーションを起こし続けなければ企業は死んでしまう

ひとつ丘を登って新しい景色が見えたら、次はもっと高い山に登り、また別の景色を見たい。これまでずっと、それを繰り返してきたようなもの。そんな言葉も口にする中西氏。根っからのチャレンジャーにも思えるが、一方でこうも明かす。

「レコードがCDに代わり、ストリーミングに代わったように、テクノロジーの進化によって、今自分たちがやっている事業が、どの角度から脅威にさらされるかわかりません。それはつまり、挑戦し、変わり続けなければ、会社は死ぬしかないということ。停滞と進化、どちらを選ぶかと言ったら、進化を選ぶしかないんです」

DX推進事業という新たな柱ができた今、プロパティエージェントは、投資用不動産業界で質量ともにトップを取ることと、事業領域の拡大という中期ビジョンの達成を目指す段階に入った。

「イノベーションを起こせる企業としてのスタート地点に立ったようなものですね。いずれはビジョナリー・カンパニーとして、僕がいなくなってもイノベーションを起こし続け、世の中を変えられる会社にしたいと思っています。でも今はまだビジョナリー・カンパニー達成度で言えば10%程度ですからね。まだ当分は、僕自身走り続けますよ」

仕事のバイブル『ビジョナリー・カンパニー』

1995年に発表された、マッキンゼー出身のジェームズ・C・コリンズとGE出身でスタンフォード大学教授ジェリー・I・ポラス著のベストセラー。長期に渡って優良企業の座を維持するジョンソン・エンド・ジョンソンやP&Gなどへのリサーチから、会社の在り方を考える名著。24歳の時に手にしたものを今でも手元に置き、バイブルにしているという。「初めて読んだ時、気づきがたくさんあって、カバーの見開きに夢中でメモしました。この本との出会いが、起業につながり、プロパティエージェントの理念や僕の仕事のスタイルのベースになっていると言っても過言ではありません」

※掲載内容は2022年12月12日現在の情報となります。

DX戦記 ゼロから挑んだデジタル経営改革ストーリー

中西 聖

出版社名:幻冬舎メディアコンサルティング
発行年月:2022年12月23日

「失敗するしか前進する道は切り拓けないーー」DX黎明期。知識も経験もないままDXに真っ向から挑んだ。

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