好きなことに没頭できる自分だけの空間があれば、人生は深みを増す。価値観を人に押しつけることなく、淡々とこだわり、淡々と愛でる。今回は、ブルーウェッジ代表取締役・髙島郁夫氏の仕事の流儀にも通じる趣味部屋に潜入した。【特集 浪漫のある家】
料理に専念できる無駄のないキッチンが欲しかった
理想のキッチンとは何か? インテリアのフランフラン創業者で、現在はホテル、アート、ヴィンテージカーなどの分野で新しいビジネスを創出する髙島郁夫氏はこう答えた。
「素晴らしいキッチンとは、料理をつくる意欲が湧いてくるキッチンです。家庭のキッチンって初めはきれいにしていても徐々に乱れが出てきます。引きだしに便利グッズがごちゃごちゃと入っていたり、冷蔵庫に緊急時の連絡先が貼ってあったり。それでは料理に集中できません。僕は料理を一番身近な楽しいクリエイティヴだと考えている。創造性を高めてくれる究極のキッチンが欲しくなったんです」
髙島氏は広尾に見つけたヴィンテージマンションをキッチン部屋に改装。2ゾーンのうち、片方にはキッチンと来客をもてなすためのダイニングテーブルを置き、もう片方には食後にくつろぐためのサロンスペースを設置。キッチン部屋には日当たりのいいテラスも備えられている。
「部屋には僕が好きな現代アーティストの作品を飾りました。今は水戸部七絵さん、佐藤翠(みどり)さん、飯田美穂さんなど日本の若手作家の作品を飾っています。刺激的で色彩に溢れた作品は、料理の作り手の気分を上げてくれるし、会話のきっかけにもなってくれます」
調理器具やキッチン用品にもこだわり抜いた。例えば、調理べらは広島県の宮島工芸製作所、おろし金は新潟県燕市のtsuboe、チーズナイフはポルトガルのイセルを選んだ。日本のみならず、世界からも最高の品々が集めらている。
さて、髙島氏は究極のキッチンでどんな料理をつくるのか。
「僕は魚好きなので、イワシの煮つけとか、アサリの蒸し物とか、ごく普通のメニューですよ。でも、料理はひと手間かけることで、まったく別のものになる。例えば、刺身用のサクを買ってきてそのまま切るのではなく、塩水で1度洗うと、味わいが桁違いに向上します。ビジネスでもファッションでも、どんな分野にもいえることですが、細部への努力を惜しまないことが最も重要なんです」
究極とまではいかなくても、自宅のキッチンを改善したいと思っている人も多いだろう。髙島氏にアドバイスをもらった。
「引きだしにさいばしがたくさん入っているという人、多いですよね。曲がっていたり、先が焦げていたり、まずは物を絞って、雑多なものを捨てることです。物を減らせば、他のアイテムとの統一感を出しやすくなるし、アート作品を飾るスペースも生まれる。削ぎ落す感覚を大切にする。これが僕のキッチンづくりの信条です」
部屋を華やかにするアート作品がずらり
Fumio Takashima
1956年福井県生まれ。’92年、東京・天王洲にフランフラン1号店を開店。2022年、フランフランを離れ、現在はブルーウェッジを立ち上げ、次世代のために今ある文化、遺産、ライフスタイルの価値を高めるプロジェクトを展開中。