どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てる連載「スターたちの夜明け前」。今回は、ソフトバンク・大関友久がスターとなる前夜を紹介していきたいと思う。【過去の連載記事】
左腕エースとしてのポテンシャルを見せた高校時代
昨年のリーグ4位から巻き返しを目指すソフトバンク。ここまでは2年ぶりの優勝、日本一に向けて順調に首位を走っているが、そんなチームにあって投手陣の救世主的存在となっているのがプロ入り3年目の大関友久だ。
若手の有望株が多いチームのなかでも開幕ローテーション入りを果たすと、プロ初先発となった2022年3月31日のロッテ戦で初勝利をマーク。その後一度はリリーフに回ったものの、5月から再び先発に復帰すると、千賀滉大(せんが こうだい)、東浜 巨(ひがしはま なお)と並ぶチームトップの6勝をマークしているのだ(7月7日終了時点)。防御率はリーグ6位、2完封はリーグトップタイの数字であり、今やチームの左のエースと言えるだけの存在となっていることは間違いないだろう。
大関は2019年の育成ドラフト2位という低い順位で指名されていることからも分かるように、アマチュア時代は決して全国的に有名だった選手ではない。高校、大学を通じて全国大会出場の経験はなく、仙台大でも同学年の稲毛田 渉(いなげた わたる・現NTT東日本)や1学年下の宇田川優希(現オリックス)など他にも力のある投手がいたこともあって、チーム内ではエース格というわけではなかった。それでも早くからその才能の片鱗を見せていたこともまた確かである。
最初に大関のピッチングを現場で見たのは2015年4月24日に行われた高校野球の春季茨城県大会、対水戸商戦だった。大関はこの日6番、ピッチャーで出場。味方の援護がなく、0対3で敗れたものの、8回2/3を投げて3失点と粘りの投球を見せている。当時から186㎝、80㎏という大型サウスポーということもあって、県内では少し名の知れた存在ではあったが、この日の最速は133キロとドラフト候補と呼ぶには寂しい数字が残っている。それでも当時のノートには9行にわたってその投球についてのメモが残されていることからも素材のよさをうかがうことができるだろう。フォームは現在よりも反動をつける動きが大きく、テイクバックで左肩が下がるため、日米でリリーフとして活躍した岡島秀樹(元巨人など)に近いイメージだったことをよく覚えている。高校生でこれだけ大型で、岡島のようなフォームであればコントロールが悪い投手をイメージするかもしれないが、この日も与えた四球はわずかに2と制球力があるところが大関の大きな魅力だった。当時のメモにも以下のような記載が残っている。
「テイクバックで左肩は下がるが、身体をひねる動きはほとんどなく、真上ではなく少し肘を下げて投げるスタイルだが、その分フォームに無理がないように見える。(中略)大型左腕だが腕の振りが安定しているのでコーナーにしっかり投げ分けることができている。カーブ、スライダーでカウントをとれ、チェンジアップは特にブレーキ十分」
ピッチングももちろんだが、牽制も上手く、この試合で一塁走者を2度自らの牽制でアウトにしている。こういった投げる以外のプレーがしっかりできるのも、後々の活躍に繋がっていく要因と言えそうだ。
投手王国の救世主へ、着実に歩んだ大学時代
その後、大学では長いイニングを投げる試合を見られる機会がなかったが、リリーフでも強く印象に残っているのが2019年3月16日に行われた筑波大とのオープン戦だ。8回から登板した大関は1イニングを三者凡退、1奪三振と見事な投球を見せてチームの勝利に貢献、まだ肌寒いなかでもストレートの最速は142キロをマークしている。体重は高校3年春から15㎏増えて95㎏になり、それにともなってボールの力は明らかにアップし、数字以上の威力が感じられた。腕の位置は高校自体よりも高くなり、左打者のアウトローに決まるボールは角度、勢いともに素晴らしいものがあった。まだ投げてみないと分からない不安定さがあったそうで、前述したようにチーム内でも決して主戦ではなかったが、この日の投球はドラフト候補に相応しいものだったことは間違いない
ソフトバンクに入団後、躍動感は更にアップし、ストレートは150キロを超えるまでに成長している。フォームについては大学時代よりも少し肘を下げ、高校時代に近くなり、そのことで制球力が安定したように見える。元々持っていたまとまりを生かしながら、トレーニングによって身体を大きくしてスケールアップを果たしたことが今の活躍に繋がっていると言えそうだ。
ソフトバンクは投手王国と言われながらも、左の先発については大ベテランの和田毅に頼る部分が大きかっただけに、大関の登場はチームにとって極めて大きなプラスであることは間違いない。2年ぶりのリーグ優勝、日本一に向けて後半戦もチームを牽引するピッチングを見せてくれることを期待したい。
Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。