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2022.06.02

【日本ハム・松本剛】すでに大ブレイクのポテンシャルを魅せていた帝京高校時代

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。【連載 スターたちの夜明け前】

松本剛選手 高校時代

写真:日刊スポーツ/アフロ

2009年7月20日に行われた高校野球東東京大会・日大一高戦

毎年、突然ブレイクする選手が出てくるプロ野球の世界だが、今年最も驚きの活躍を見せている存在と言えるのが松本剛(日本ハム)になるだろう。過去10年間で規定打席に到達したのは2017年だけで、それ以降は一軍と二軍を行き来する生活が続いており、昨年も47試合の出場で24安打という成績に終わっている。今年もシーズン前にレギュラーとして考えていた人は少なかっただろう。

しかし、レギュラーシーズンが開幕すると外野の一角に定着してヒットを量産。5月26日時点で両リーグトップとなる打率.387をマークしているのだ。今年のパ・リーグは歴史的な“投高打低”であり、打率3割以上をマークしているのが松本と今宮健太(ソフトバンク)の2人だけ。2位の今宮も打率.345ということを考えると、松本の成績がいかに突出しているかがよく分かるだろう。

そんな松本のプレーを初めて見たのは帝京高校の1年生だった2009年7月20日に行われた東東京大会、対日大一高戦だ。この試合で松本は8番、ショートで先発出場。ちなみに5番、キャッチャーとして出場していたのが原口文仁(阪神)だった。この試合で松本は攻守ともに1年生離れしたプレーを見せつけることとなる。まず目立ったのがショートで見せていたスローイングだ。当時のプロフィールは180㎝、70㎏とまだ細身だったものの、三遊間の深い位置からも余裕を持ってノーバウンドで投げられる強肩は上級生を含めても明らかに目立っていた。試合でも3度ショートゴロをさばく場面があったが、いずれも軽快に処理している。

そして非凡だったのはショートの守備だけではない。8番という打順で、この日は3打数1安打だったものの、バッティングでも高いポテンシャルを随所に見せていたのだ。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「チームの中では細身だが、背筋がまっすぐに伸び、バットを立てて大きく構えるフォームから只者ではない雰囲気が漂っている。(中略)少しバットのヘッドが中に入り、リストの強さに頼ったところはあるものの、コンパクトで鋭い振り出しは出色。内角のストレートを肘をたたんでレフトへ鋭く弾き返すバッティングは既に超高校級」

結局松本は、この後も結果を残し続け、この夏の東東京大会6試合で5割近い打率を残してチームの甲子園出場にも大きく貢献。甲子園での本大会では3試合で2安打と目立った結果を残すことはできなかったが、それでも2つの盗塁を決めるなど脚力があるところもアピールしている。

2022年シーズンのブレイクを予感させていた3年時夏の甲子園

松本はその後、故障に苦しんだ時期はあったものの順調にドラフト候補へと成長。3年夏には東京を代表する強打のショートとして厳しいマークにあいながらも、8試合で27打数16安打3本塁打、打率.593という圧倒的な成績を残してチームを甲子園出場に導いている。本大会でも1回戦の花巻東戦では途中から登板した当時2年生だった大谷翔平(現エンゼルス)からライト前タイムリーを放つなど、2安打2打点と活躍。続く2回戦の八幡商戦では9回に劇的な逆転満塁ホームランでチームは敗れたものの、松本自身は3回に先制のツーランを放つなど2安打2打点としっかりと結果を残した。1年生からレギュラーとして活躍しながら上級生になるにつれて輝きを失ってしまう選手も多いなかで、最後の夏にも注目を集めながら結果を残しているのはさすがという他ない。

プロでは内野の守備に苦労して外野手へ転向となり、怪我に苦しんだ時期もあったものの、高校時代から持ち味だったリストの強さと強肩は決して衰えることなく、ここへきて更に輝きを増してきていることは間違いない。プロ11年目だが、年齢的にも今年で29歳ということを考えるとまだまだ進化することも十分に考えられるだろう。残りのシーズン、初のタイトルはもちろん前人未到の打率4割にどこまで迫ることができるのか、松本のバットに引き続き注目してもらいたい。

【連載 スターたちの夜明け前はこちら】

Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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