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2022.05.29

【SAMURAI佐藤悦子・前編】「成長の芽を親が摘んでしまうこともある」──連載「イノベーターの子育て論」Vol.13

日本のビジネス界やエンタメ界を牽引するイノベーターたちの“子育て論”に迫る本連載。第13回は、シリーズ初となる“母”として、SAMURAIのマネージャー、佐藤悦子さんが登場。クリエイティブディレクター、佐藤可士和氏との間に生まれた高校1年生になるひとり息子に対する想い、子育ての哲学を語ってもらった。後編はこちら【連載 イノベーターの子育て論はこちら】

佐藤悦子01

算数とは正解を導くまでの道のり

ユニクロや楽天、日清食品にセブン・イレブン・ジャパンなど、日本の名だたる企業のブランディングを手がけるSAMURAI。そのマネージャーとして多忙な日々を送りながら、今春高校生になったひとり息子の母という顔も持つ佐藤悦子さん。

「ご質問の中に、『子育ての方針は?』というものがあったので、改めて考えてみました。いろいろあるのですが、一番大事にしているのは、子供の成長の芽が出た瞬間を見逃さず、育てていくこと。いつ訪れるかわからないので、ちゃんと子供を見ていないと、見逃してしまうこともありますし、無意識のうちに摘んでしまうこともあるかもしれません。それだけは、したくないなと思っています」

そんな言葉と共に語ってくれたのは、息子が小学2年生の時、共に佐賀のバルーンミュージアムを訪れた時のエピソードだ。館内で、日本初の有人飛行に成功した方々が当時を振り返るドキュメンタリー映像のなかで語られた「科学の面白さは、著名な学者がやっても自分たちのような学生がやっても、正しい方法であれば、必ず答えが同じになること」という内容に対して、息子は「算数と逆だね」と反応。一般的に、算数は答えがひとつの学問とされている。そう思っていた悦子さんは、息子の言葉に、内心、「えっ、何言ってるんだろう!?」と、驚いたという。

「理由を聞くと、『算数は、1+1=2っていう答えのことじゃないから。その答えにたどり着く道のり、考え方が、算数だから』と言うのです。『子供ながらに概念を語っている!』と、二度ビックリしました。

きっと、小学校の担任でもある算数の先生が、最初から解き方を教えるのではなく、どうしたらその答えが導かれるかという方法を子供たちに考えさせる授業をして下さっていたからでしょうね。学校や先生は、親とは違う視点を子供に与えてくれる存在なんだと、その大切さを、改めて認識しました。

後日面談の時に、先生にこのエピソードをお伝えしたんです。そうしたら先生が、『僕は、算数は答えに至るまでの道のりだとは、一言も言っていません。きっと息子さんが、授業を通して感じてくれたことでしょう』とおっしゃって。その時、思ったんです。子供の成長の芽を摘み取ることは絶対にしないようにしようって。あの場で『何言っているの! 答えがいろいろあるのは国語で、算数はひとつ!』なんて言わなくて、本当に良かったですね(笑)」

佐藤悦子02

取材はSAMURAIのオフィスで実施。お子さんとのエピソードを、身振りを交えて、明るく楽しそうに話してくれた悦子さん。

親ができるのはキャンバスを用意することだけ

目の前に示されたものをそのまま受け取るのではなく、自分で考え、感じ取りながら、それを言葉に表す。感受性が豊かな少年は、どのようにして生まれたのだろう。

「さまざまな経験から何かを感じとるのは、子供自身です。親ができるのは、なるべくたくさんの経験をさせることだと思います。絵を描くのは子供だけど、いろいろな大きさや種類のキャンバスを用意するのは親、という感じでしょうか」

子供に、さまざまな経験の機会を用意する。それは、息子が物心ついた頃から意識していた。とくに幼少期は、自然に触れるという体験を重視。千葉県にある体験型ファームで泥だらけになって野菜を収穫したり、キャンプや山登りに出かけたりと、都会ではできない経験を求め、家族で出かけたという。

「実は、佐藤(可士和氏)も私も、もともとアウトドア派ではありません。子供がいなければ、キャンプも農場体験も、きっとしていなかったと思います。そう考えると、親自身も、子供を通じて新しい世界を知ることができるんですよね。ただ、スポーツだけは苦戦しました(笑)。幼少時代にサッカーや野球の教室にも通ったのですが、息子はほぼ興味を示さず、ゴールの裏で土に絵を描いていたことも(笑)。

私は、子供時代にスポーツにも熱中した方がいいのではと思っていたので、軽く悩みましたが、そうしたら佐藤に言われたんです。『身体は動かした方がいいけれど、本人が夢中になれないなら、別にサッカーや野球をする必要はないよ』って。ハッとしました。そんな風に、母親である私とは別の視点を授けてくれるのは、ありがたいですね」

佐藤悦子03

息子が小学生の頃、パリでアートのワークショップに親子で参加。「与えられた課題に沿わないけれども真剣に作品を仕上げた親子にも、講師が他の作品と同様に講評し、参加者もそれを自然なこととして受け入れていて。こういった体験も、多様性への理解につながってほしいと思っています」。

何かに没頭した経験が、挑戦する姿勢につながる

「思っていることを言葉にしなければ伝わらない」というのが、悦子さんと可士和氏の共通認識。そのため、子供のことや子育ての方針について、よく話をするという。

「佐藤が、よく口にするのが、『スポーツでも、音楽でも、アートでも、勉強でも、アルバイトでも、なんでもいい。大人になる前に、寝食を忘れて没頭するような経験をしてほしい』という言葉。『深く、深く、のめり込んで、初めて触れられる本当のものがある。その感覚を知っていると、大人になってからも挑戦し続けることができる。大人になると、何かにそこまで没頭する時間をとることは難しくなってしまう。だからこそ、若い時に、心震える経験をしてほしい』と。

私も、息子には、人生において何かにチャレンジし、自分の中で“成し遂げた”と思える人間になってほしいと思っています。表現は違うけれど、佐藤と考えていることや想いは同じですね」

後編「佐藤可士和を焚きつけた息子のひと言とは?」はこちら

Etsuko Sato
早稲田大学教育学部卒業後、大手広告代理店や外資系化粧品会社のAD/PRマネージャーを経て、2001年、SAMURAIに参加。マネージャーとして、さまざまなプロジェクトのマネージメント&プロデュースに携わる。著書に『SAMURAI 佐藤可士和のつくり方 改訂新版』(誠文堂新光社)、『子どもに体験させたい20のこと:想像力を限りなく刺激する!』(筑摩書房)など。

【連載 イノベーターの子育て論はこちら】

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=田中駿伍(MAETTICO)

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