まだまだ先行きが見えない日々のなかでアスリートはどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「コロナ禍のアスリート」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。
自信と不安で揺れ動いたNBA4季目
本契約選手として初めてシーズンを戦い抜いた。主力として活躍した時期もあれば、ケガや新型コロナウイルスによる離脱も経験。NBAラプターズの渡辺雄太(27)が世界最高峰リーグで4年目を終えた。2021~22年のレギュラーシーズンは38試合で、1試合平均11.7分出場、4.3得点、2.4リバウンド。数字的には2020~21年(50試合、1試合平均14.5分出場、4.4得点、3.2リバウンド)を下回ったが、確かな手応えを得ていた。
「いいことも悪いことも経験できた。葛藤はあったが、終わってみればいいシーズンだった。終盤にローテーションから外れたのは悔しかったが、自分はまだまだNBAでやっていけるという自信を得られた。自分がローテーションの選手で試合に出ていた時はある程度の数字を残せた。数字に残らない部分でもいい活躍ができた」
開幕前のプレシーズンマッチで左ふくらはぎを負傷。開幕から18試合を欠場したが、2021年11月24日のグリズリーズ戦で初出場すると、その後はローテーション入り。同年12月には2部門で2桁を記録する"ダブルダブル"を得点とリバウンドで2度達成した。持ち味の守備に加えてシュートも安定して自信を深めたが、1月初旬に新型コロナウイルス感染防止規定の対象となり離脱。約1週間後に復帰したが、シーズン序盤から故障で戦列を離れていた主力が戻ったタイミングと重なり、年明け以降は出場機会が激減した。
「コロナから戻った試合で調子が悪くて。プロとして一切、言い訳はできない。一度ローテーションの選手として試合に出られる楽しさを知った分、出られない時にギャップを感じた。今までの3シーズン以上に苦痛で、試合に出られないしんどさがあった」
オフでの成長がカギ
2018~19、2019~20年シーズンはグリズリーズとの2ウェイ契約だった。NBA下部組織であるGリーグでプレーしながらレギュラーシーズン中に最大45日までNBAチームに所属することができる内容で、渡辺はGリーグのハッスルとグリズリーズの両クラブでプレー。1年目は15試合(1試合平均11.7分)、2年目は18試合(1試合平均5.8分)の出場にとどまった。2020~21年シーズンはラプターズとの2ウェイ契約でスタートし、4月に念願の本契約を締結。日常的にNBAのコートに立つ喜びを知っただけに、ベンチを温める時間が増えた今季終盤の精神的ダメージは大きかった。
それでも悲観はしていない。「12月は1試合、2試合ではなく、一定の期間活躍できた。あれは実力がないとできない」と自負。昨季の40%から34.2%に落ちた3点シュート成功率のアップを課題に挙げ「どういう状況でも高確率で決められることがシーズンをとおして、ローテーションで活躍するためには必要」と冷静に分析する。
シーズン開幕前には日本人シェフと専属契約。学生時代からやせ形でパワーアップに苦しんできたが、日本食中心の食事に切り替えて身体は大きくなった。「自炊できないので、今までは外食やデリバリーで栄養が偏っていたが、今季の食事は充実していた。これまでは、体重が増えると身体を重く感じてしまうことがあったが、今回は身体のキレも維持しながら増やせている」。コート外でもNBAで戦い続ける足固めはできた。
昨夏の東京五輪には日本代表の主将として出場。1次リーグ3戦全敗に終わり、人目をはばからず涙を流した。十分な休養を取れずにNBAプレシーズンに突入したことも開幕前のケガの一因と考えられるが「自分は日本代表の選手でそこにモチベーションはある」と、今後も日本代表の活動には積極的に参加する方針だ。ウィザーズの八村塁(24)が来季開幕に照準を合わせるために欠場を決めた7月のW杯アジア予選についても「夏の活動をどうするかはまだ決めていない。代表の方と話をしてから決めたい」と出場の選択肢を捨ててはいない。
今オフにラプターズとの契約が切れてフリーエージェントとなるため、来季の所属クラブは未定。渡辺は「来季もラプターズの一員でやりたい気持ちはあるが、どういう話が来るか分からない。どうなっても、このオフでの成長が必要になる」と視線を上げた。一年一年が勝負の厳しい世界だが、まだまだ歩みを止めるつもりはない。